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概要

TAGEN FOREFRONT 05

FOREFRONT REVIEW05SACLAの高強度X線のもとで見えてくる分子のダイナミックな動きSACLAで見えてくる原子・分子の世界化学変化における分子構造の変化SACLAの完成により、我が国でも非常に強力かつパルス幅の非常に短いパルスX線が利用できるようになってきました。「X線自由電子レーザーを利用するとこれまで見えなかった様々なものが見えるようになると期待されています。そのひとつが、タンパク質分子や生体分子の構造です」。多くのタンパク質分子の構造がX線結晶構造解析法を用いて決定されてきていますが、結晶化が困難なために未だに構造が決定されていないタンパク質分子も多々あります。SACLAの非常に強力な最新鋭の強力な光源を持つSACLA。しかし、このSACLAを活用するためには、克服すべき問題点が多数あります。上田研究室では、SACLAでの目標の実現に向けて、様々な問題点を解決すべく、若い研究員を送り込みSACLAでの実験を開始しています。X線パルスを用いると非常に小さな結晶や結晶化していない試料からでもX線回折像が得られることから、これまで構造がわからなかったタンパク質分子や生体分子の構造が決定できるようになるだろうと上田教授は言います。「もう一つの世界が、化学変化において超高速で起こる分子構造の変化です」。反応途中の分子構造の変化を捉えることが化学反応を理解する究極の目標であるといったのは20世紀末にノーベル化学賞を受賞したアハメド・H・ズヴァイルです。反応中に超高速に起こる構造の変化と電子状態の変化の相関に関する理解が進むというわけです。「これにより反応の制御が可能になり、新機能デバイス材料設計や人工光合成の実現といった重要な課題に不可欠な情報を得ることも期待されます。多くの研究者が描いてきたこの究極の目標がまさにSACLAで達成できると期待されているわけです」。位相問題を解決し新規タンパク質の構造解析に光を「しかし、SACLAを利用する上で超えなければいけない課題があります。位相問題と言われるもので、回折データから電子密度を求めるのに回折強度と位相が必要ですが、測定からは強度しか得られないという問題です」。現在、タンパク質のX線結晶構造解析で位相を求める方法として、分子置換法、多波長/単波長異常分散法といった方法がよく用いられています。分子置換法は、既知の類似タンパク質の構造とX線回折強度データを用いて位相を決定する比較的簡便な手法です。ごく最近、LCLSで初めてタンパク質の新規結晶構造が決定され話題になりましたが、この研究は、すでに分かっている構造をもとにこの新規構造部分を決定したものです。それでは、類似構造が存在しない場合には、どうするか?より難易度の高い多波長/単波長異常分散法を用いて解析しなくてはなりません。「ここで問題となるのが、放射線損傷。SACLAの非常に強力なX線パルスは試料に損傷をあたえてしまうという問題です。各々のX線パルスが損傷のない試料を照射するように次から次へと新しい試料を供給しなければなりません。タンパク質微結晶を次から次へと供給して行うX線構造解析をシリアルフェムト秒X線構造解析と呼びます。各々のX線パルスが様々な方位と異なるサイズをもつ新しい試料を照射するような実験条件下でも異常散乱による信号を評価できるのか、あるいは試料がSACLAの非常に強力なX線パルスに照射される場合、そもそも重原子の異常散乱がこれまで用いられてきたような光学定数で記述できるのか、といった問題も一つずつ解決していかなければなりません」。こういった問題意識をもって、上田研究室が最初にSACLAで取り上げた課題は、タンパク質分子の中に天然に含まれる硫黄原子からの異常散乱を検出することでした。見事、異常散乱信号を捉えることに成功して、SACLAでシリアルフェムト秒X線構造解析が可能であること、SACLAを用いたタンパク構造解析への第一歩を記すことができました。上田研究室では、次にX線散乱で重要な役割を果たす重原子の代表としてキセノン原子を選んで、SACLAの強力X線パルス照射に対してキセノン原子がどのように応答するかを調べました。キセノン「SACLAでこれまで見えなかったものを見る」という目標を実現するためには、SACLAの非常に強力なX線パルスが原子によって散乱される様子を正しく記述することがポイントとなります。SACLAの非常に強力なX線パルスを用いた構造解析では、重原子の動的な挙動を正確に記述することが不可欠であると考え、分析システムの研究・開発を進めています。原子線を真空中に導入して、SACLAで得られる1ミクロン径程度のサイズに集光したX線パルスを照射し、生成したキセノン原子イオンを飛行時間型イオン質量分析装置を用いて観測。百兆分の1秒のパルス幅の時間内に、連続的に起こるオージェ電子放出過程を5回ないし6回繰り返して生成することが見出されました。この研究結果からSACLAの非常に強力なX線パルスを用いた構造解析では、重原子の動的な挙動を正確に記述することが不可欠であることが分かりました。TERM INFORMATIONX線回折結晶のように周期的な構造を持つ物質に対して、ある波長のX線をいろいろな角度から照射すると、特定の角度では強いX線の反射が起こるが、別の角度では反射がほとんど起こらないという現象を観測できる。これは物質を構成する原子により散乱されたX線が、結晶構造の繰り返しによって強めあったり、打ち消しあったりするためである。この現象をX線回折と呼ぶ。異常散乱X線の波長が原子のX線吸収端エネルギーと異なるとき、X線が原子で散乱された時の散乱波の強度は原子散乱因子(実数)の2乗に比例する。しかし、X線吸収端近傍では分散が変化し(これを異常分散と呼ぶ)、原子散乱因子は複素数となり、X線の波長によって原子散乱因子が変化する。この異常分散による散乱因子の異常な振る舞いによる散乱強度変化を異常散乱と呼ぶ。X線結晶構造解析法様々なハードルを超えて超微細、超高速な現象を捉えたいこれらの研究によって、これまで構造が決定されていない新規タンパク質についても、SACLAを光源としたタンパク質微結晶のシリアルフェムト秒X線構造解析法に強X線条件化での異常散乱法といった方法を組み合わせることによって構造を決定する道筋がついたと言えます。結晶化が困難なために未だに構造が決定されていないタンパク質の中には、創薬ターゲットとなる膜タンパク質も多く含まれていることから、創薬分野への大きな貢献も、期待されます。「SACLAの大強度極短パルスX線レーザーが可能にしたフェムト秒の露光時間を活用した高精度高速時分割構造解析法実現に向け、日々研究を進めています。強力X線パルスを照射された重原子の挙動を正しく記述できれば、SACLAを用いて、これまで見えなかった超微細、超高速な現象を見ることも可能になると考えています」。X線回折の結果を解析して結晶内部で原子がどのように配置しているかを決定する手法をX線結晶構造解析と呼ぶ。結晶からのX線回折は個々の原子からの散乱の重ね合わせとなり、結晶の散乱因子(結晶構造因子と呼ぶ)は複素数で記述される。X線の散乱強度は結晶構造因子の絶対値の2乗に比例する。X線結晶構造解析は測定したX線の散乱強度から結晶構造因子を求め、さらにそこから結晶を構成する原子を同定する作業である。我が国でも非常に強力かつ非常に短い時間幅のパルスX線が利用できるようになったX線自由電子レーザー施設SACLA。このX線自由電子レーザーを利用して、これまで見えなかった超微細、超高速な現象を見えるようにする仕組みづくりに取り組んでいます。リラックスは音楽で。クラッシックやオペラなどを聞いてゆったりしています音楽はリラックスに最高ですね。オフタイムは音楽鑑賞をしていることが多いです。リビングにも、ダイニングにも、寝室にも、オフィスにもお気に入りのCDを用意していて聞けるようにしています。時間があるときはコンサートにも行きますよ。妻がピアニストだったのでその影響もありますね。いろいろ専門的なことを教えてくれるので、2人でコンサートに行くと勉強になります。妻は「音楽でリラックスなんて考えられない」と言っていますが…。オーディオ機器を揃えるのも好きですが、この頃は安いオーディオ機器でいかにいい音を出すかという楽しみ方をしています。聞くのはクラシックが中心ですが、ジャズも聴きます。子育ての時代はもっぱらビートルズを聴いていましたね。OFF TIME海外からSACLAに集まる研究者たち。世界の研究機関との協力体制、そして切磋琢磨の中で、これまで見えなかった超微細、超高速な現象を見る研究が進んでいます。位相位相とは周期的な現象のひとつの周期中の位置を示す無次元量で、通常は角度で表される。結晶構造因子は結晶によるX線回折現象を表す複素数であり、振幅と位相で記すことができる。X線の散乱強度からは結晶構造因子の絶対値は求められるが、その位相については知ることができない。これを解決しようとする努力を位相問題という。多波長異常散乱法シンクロトロン放射光やXFELのようにX線の波長を複数選択できる場合、重原子、例えばセレン(Se)原子の異常散乱を利用することで位相を決定することが可能である。この方法を多波長異常散乱法と呼ぶ。タンパク質の構造決定では、もっぱら、Se原子の異常散乱を複数の波長で測定し、位相を決定することが行われる。Se原子はタンパク質中にセレノメチオニンとしてメチオニンの代わりに取り込まれる性質があることから、セレノメチオニン置換タンパク質の結晶と取り込まれたSe原子の異常散乱を使った位相決定はタンパク質X線結晶構造解析で定石となっている。33 TAGEN FOREFRONTTAGEN FOREFRONT34