ブックタイトルTAGEN FOREFRONT 05
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TAGEN FOREFRONT 05
FOREFRONT REVIEW04TERM INFORMATION電子の雲量子論誕生以前には、原子核の周囲を電子がまわるイメージが原子の姿として認められていた。しかし量子力学が台頭して以降はこれが誤りであり、原子核の周りを電子の雲が取り巻いているというのが本当の姿であることがわかってきた。しかし、雲といっても多くの電子が粒子として存在しているわけではなく、一つの電子が同時に様々な位置に共存していること、言い換えると確率として存在していることを示しているのである。実験では実現できなかった物性解明を計算で試みる金属生産工学・反応工学、材料加工のエキスパート、三村耕司准教授。高純度素材、プラズマ溶解精製、イオン交換精製、高融点金属などを専門的に扱うことによって、物質の創製、物性研究にあたる。計算材料熱力学分野を扱う大谷研究室では、科学技術計算用並列計算機を備えているほか、溶解炉、プラズマ炉、高温X線装置、イオン交換装置などを備え、結晶中の不均一構造に関する熱力学的検討、合金系融体の熱力学物性の理論計算、特殊溶解法による高融点金属の高純度精製などの研究に取り組む。大谷教授の計算科学が扱っているのまた、科学技術振興機構(JST)のプロは、原子が100個、1000個ぐらい集まっジェクトでは、鉄による新しいより強力な磁た領域での物性。マルチスケール解析で性材料を作る研究を進めています。汎用はそれぞれのレベルによって計算の仕方性があり、安く手に入る、身近な元素で、が違ってきますが、主にいちばん小さいスこれまでにない物性や優れた機能を引きケール、1?10nmの状態を扱います。出そうという、ユビキタス元素戦略のひと安定な物質というのは、その物性がほつです。調べ尽くされていると思われていぼ知られているものです。大谷教授は、る鉄系合金の中に、計算科学を応用す準安定のもの、不安定なものも扱います。ることによって高機能な物性を発見しよう「準安定状態のもの、不安定状態なものという試みです。しかし実際に計算によっの中にこそ、物性的に秀でたものが潜んて新しい物性を開発することは、非常にでいる。電子論計算をして材料の地図を難しいことです。計算によって、逆にその作りながら、今までの手法では実現できな困難が突きつけられています。かった不安定なものを含めて拡大し、その将来的に大谷教授が目指しているのは、中から有用なものを探し出す。そしてそれ「何の条件も使わずに、元素と、ある組を作る方法を考える」と教授は説明します。成を指定して、何かを混ぜる。その時にどんな物性が出てくるのか計算だけで調計算だけで物性がわかるべられるということ。たとえば絶対零度は手法の確立を目指して実験上ではつくれないので、物質が実際大谷教授は、2014年「材料の熱力にどういう状態なのか、誰も観たことはな学物性の電子論計算と材料開発への応い。しかし計算によればそれが見えてく用」のテーマで、日本金属学会「谷川・ハる。そういう手法が確立できないかというリス賞」を受賞。各種化合物や材料の状こと」。態図計算において独創的な研究を展開大谷教授の計算材料科学による物性し、この分野での顕著な業績が認められ探索の道は、これからも続きます。たものです。カーボンナノチューブ量子論計算からわかってきたこと量子論では、電子は原子核の周りを回転しているのではなく、原子核の周りにある存在確率を表す「電子の雲」である、というとらえ方をします。「電子の状態を計算すれば物質がわかる、物性を解明できる、と考えられるようになってきた。そこが電子論量子力学の面白さ」と、大谷教授。こうした考え方の計算によってわかってきたことがあります。たとえば、ナノ材料として有望視されているカーボンナノチューブは、カーボンの中に電子が存在しない領域があり、環状の電子がお互いに接続されてできている、ということ。鉄の磁石では、電子がまんべんなく存在しているのではなく、ある軌道をもって流れており、軌道の結合によって磁性が生じているということ。「物質がどんなエネルギー状態なのか、磁性をもっているのか、反強磁性なのか、電子の存在状態を調べるとすぐわかる。計算科学というのは非常に有用で、材料開発を含めてさまざまな分野で利用されてきている」。大谷研究室の特徴は、こうした計算による物性探索について、溶解炉による化合物作成などの実験で確認しながら、手法として正しいかどうか突き合わせをしながら進めているということ。「計算だけでほんとうに合っているのか、まだそれだけで信用してもらえる段階ではない。計算と実験による検証という両面作戦で信頼を獲得していく」と、大谷教授はその意図を説明します。NEC基礎研究所の飯島澄男氏により発見された六角形の格子でできた金網を丸めたような新しい物質をいう。現在のナノテクノロジーのブームの先駆けとなった。この発見に先立つ1984年には、米国ライス大学のリチャード・スモーリー教授により、サッカーボール状の炭素分子「フラーレン」が見出されている。これらの物質は、構造により電気的性質が変化したり、超電導を引き起こすなどの材料としての優れた性質を有することから注目を浴びている。量子論計算によって得られた磁石の構造。鉄の内部構造として電子が均質な状態で存在しているかのようなイメージを持ちやすいが、鉄の磁石では、図の緑色、赤色のように、電子がある軌道をもって流れていて、白い空洞の領域がある。これら軌道の結合によって磁性が生じていることが、計算によってわかってきた。「趣味」というわけではないが、なんとなく好きで、今も続けていること準安定、不安定な物質に優れた物性を探す電子論計算による材料開発のスキームとして「計算で得られた情報を使って材料をつくるときに、あらかじめ必要な物性の目星をつけて、それを組み立てていく方法がわかれば、より目的に近い物性が設計しやすくなる」と大谷教授は説明します。「これまでは、計算による指標がなかったので、経験と勘で実験をして導き出そうとしていた。だから失敗も多かった」といいます。OFF TIME磁性物質が原子やそれよりも小さいレベルで外部の磁場に反応する現象を磁性という。このような物質の磁性は、ミクロ的には原子の磁気モーメントの存在とその配列によって決定される。これにより反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性、フェリ磁性など、様々な磁気的性質が出現する。マルチスケール大きさの異なる時空間をいうが、材料学の分野では、特に電子や原子のスケールから、我々が普段目にしているメートルオーダーまでのスケールを対象にすることが多い。これらは対象となる物質の大きさが異なるために、その物性を計算する場合には一つのシミュレーション手法で記述することが困難で、様々な方法を連成させることによって計算を行っている。準安定状態物質が最も安定に存在できる安定状態ではないが、それよりも熱力学的に少し不安定でありながら、長時間その状態を保持できることをいう。物質の準安定状態と安定状態の間には越えるべきエネルギーの山(障壁)があり、これを超えるエネルギーが外部から加えられると安定状態に移行する。準安定状態は、一つとは限らない。絶対零度昔、ある政治家が自分の趣味はカエルの置物を集めることと言っているのを聞き、「あ、そんなことが趣味でもいいんだ」と思ったという。それなら私は、ぬいぐるみが好きだ、と大谷教授は切り出す。「娘は、今はもう社会人だが、まだ小さい頃に何かといえば、娘へのおみやげにいろんなぬいぐるみを買っていた」という。ここまではごく普通の話だが、いろんなぬいぐるみを買って来るという行動は、今現在も続いている。出張に行ったとき、国内でも海外でも、とにかく気に入ったものを見つけては買ってくる。「娘のために」というふりをして買ってくるのだという。ただ無性に好きなだけのかもしれないが、一度ぬいぐるみ論を聞いてみたい。計算材料科学が扱っているのは、原子が100個、1000個ぐらい集まった領域での物性の探求。図の中では、1nmから10nmほどのスケールで電子・原子の配列に対応した電子論計算、さらに1μmほどまでのスケールで電子・原子の集団運動に対応した状態図計算を扱う。物質のエネルギー状態が最低になる温度であり、絶対温度スケールでの零度(セルシウス温度では-273。15℃)である。古典的なニュートン力学では原子の振動が完全に止まった状態と定義されるが、量子力学の世界では不確定性から原子の運動は止まることなく振動している(零点振動)とみなされている。27 TAGEN FOREFRONTTAGEN FOREFRONT28