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概要

TAGEN FOREFRONT 05

FOREFRONT REVIEW03研究室で作成したナトリウムとシリコンの二元系状態図。この二元系状態図をもとに、ナトリウムを用いた炭化ケイ素の低温合成やシリコン結晶の低温育成など、新しい材料作製プロセスの開発を行っています。新規多元系無機化合物の探索構造解析と特性評価へ新規化合物Na8Ba74.5Si17.5の結晶構造。ホウ素原子の20面体で構成されるトンネルの中にシリコン原子鎖があり、その周りをナトリウム原子が取り囲んでいる。新規多元系無機化合物の探索新しいセラミックス素材作製プロセスの可能性を探求炭化ケイ素の研究のため後回しになってしまったバリウム、シリコン、炭素からなる3元系の新規物質の探索では、その後、逆ペロブスカイト型構造の新規物質Ba3Si4C2が合成されました。この物質は、三重結合で結ばれた炭素原子の二量体([C≡C]2-)とシリコンの四面体ジントルポリアニオン([Si4]4-)を含んでいます。さらに、ホウ素を含む系についても物質探査を進めたところ、ホウ素の20面体で構成されるトンネル内にナトリウムとシリコンの原子が配列した構造の新規化合物Na8Ba74.5Si17.5が合成されました。こちらは高硬度構造材料としての応用が期待さています。さらに、熱電変換材料を中心とした新たな機能材料の開発をめざし、ナトリウム含む金属間化合物などの系にも物質探査の範囲を広げ、現在、研究を展開しています。「私どもの研究の出発点は、新たな無機化合物を探索することにあります。多種元素の組み合せからなる多元系の無機化合物には未開拓の物質群が数多く存在し、既知の材料にはない特性を持つ物質が潜んでいる可能性があります。新材料の候補となるような一つでも多くの新規物質を見いだし、次の時代に伝えていければと思っています。また、こうした研究の過程で、窒化ガリウムや炭化ケイ素、ケイ化物、シリコンなど、既存の実用材料の新たな合成や精製方法が見いだされました。ナトリウムというありふれた元素の新たな可能性を示すもので、限られた資源をいかに有効に活用していくが問われる時代において、とても意義のあることだと考えています」。TERM INFORMATION状態図温度や圧力、組成と、固体や液体、気体など物質の状態の関係を表した図。構成元素が2種類の場合を2元系状態図と呼ぶ。ウッドセラミックス木材を原料とし、生体組織の形状を維持したまま、細胞壁などを酸化物や炭化ケイ素などで置き換えたセラミックス。で状態図の報告がないことは、驚き以外の何ものでもありませんでした。」そこで研究室では、自作の熱分析装置による測定と、組成の異なる試料を多数の温度で加熱し、得られた試料の形態を観察することによって、ナトリウムとシリコンの状態図を作成しました。ナトリウムの融点は98℃で、700℃では液体状態のナトリウムに、融点1414℃のシリコンがおおよそ10%溶解します。このナトリウムに溶けたシリコンの反応性が高いため、700℃付近でも炭化ケイ素が生成したと考えられています。シリコンが溶けた700℃のナトリウム融液に炭化木を浸したところ、細胞壁の組織を保持したいわゆる炭化ケイ素のウッドセラミックスを合成することもできました。従来法では、溶融したシリコンを含浸させ、さらに反応させるため1700℃の高温が必要でした。溶媒のナトリウムは、炭化ケイ素が生成後、蒸発・再凝結させることにより回収でき、高純度の状態のまま、何度でも再利用できます。さらに、ナトリウムの蒸気を利用し、原料シリコンの粉末の形態やサイズを調整することで、孔のサイズや形状を制御した炭化ケイ素の多孔体を合成することもできました。こうしたナトリウム融液や蒸気に関する取り扱いには、窒化ガリウム単結晶の研究で培われた経験が活かされています。また、ナトリウムに溶けた活性なシリコン源を利用して、遷移金属のケイ化物も従来法よりも低い温度で合成できることも分かりました。金属ケイ化物は、熱電エネルギー変換材料として盛んに研究されていますが、ナトリウムを用いた合成法でも、通常の高温合成法で作製された材料と同程度の熱電特性が得られています。ひとたび状態図が明らかになると、その情報をいろいろと応用することができます。そのひとつがシリコンの高純度化です。太陽電池製造用のシリコンをより安価で精製できる方法が求められており、アルミニウムなどの金属フラックスを用いた方法が検討されています。ナトリウムフラックス法では、低純度のシリコンをナトリウムに溶かした後、溶媒を蒸発させて再結晶化させることにより、従来法では取り除くことが難しかったホウ素を含め不純物の少ないシリコンを得ることができました。再結晶化した際に微量取り込まれるナトリウムは、最終的にインゴットを製造する際にシリコンから蒸発し除去されることも分かりました。また、ポーラス体や螺旋形状のマイクロチューブなど、ナトリウムを利用することで従来法では得られない様々な形態のシリコンを作製できました。炭化物ではどうか?ナトリウムを用いた「炭化ケイ素」の合成とシリコンの精製山根研究室では、窒化物の合成に効果があったナトリウムフラックス法を他の非酸化物の新規物質探索や素材合成に適応に利用できないかと考えました。まず、炭素を含む系の合成に応用することを試みました。「バリウム、シリコン(ケイ素)、炭素からなる3元系について新規物質探索を行うことを計画し、その予備実験としてシリコンと炭素の混合物にナトリウムを加えて反応させたところ、727℃で炭化ケイ素が生成することを見出したのです。このことを炭化ケイ素がご専門の先生にお話したところ、『そのようなことは許されません』と言われ、最初はあまり信じてもらえませんでした」。炭化ケイ素は、代表的な非酸化物セラミックスとして古くから盛んに研究開発が行われている素材で、1000℃を超える高温条件下で合成されます。身近なところでは、炭化ケイ素の多孔体がジーゼルエンジン車の排気ガスフィルターとして使用されています。「従来の合成方法に比べ、なぜ低温で合成が可能なのか?この原因を探るため、いろいろと文献を調べたところ、ナトリウムとシリコンからなる2元系の状態図がないことに気づきました。状態図は、材料研究において基本的な物質に関する情報です。材料研究が盛んな21世紀にあって、中学生でも知っているようなナトリウムとシリコンというきわめて代表的な元素の組み合わせ檜の炭化木からナトリウムフラックス法により700℃で作製された炭化ケイ素ウッドセラミックス。細胞壁状の壁はすべて炭化ケイ素(SiC)セラミックス。多孔体ポーラス体とも言う。スポンジや軽石のように空隙を多く含むもので、用途により、材質や空隙の形状や大きさ、空隙の占める割合が異なる。走査型電子顕微鏡で撮影したナトリウム蒸気を用いて作製された炭化ケイ素多孔体の破断の写真。角張った空隙の形状とサイズは、原料のシリコンの粉砕粒子の形状が模られている。窒化物の合成に一定の効果があったナトリウムフラックス法を他に活用できないか?山根研究室では、非酸化物の新規物質探索や素材合成に応用する実験を行っています。熱電エネルギー変換材料熱エネルギーを電気エネルギーに変換することができる半導体材料の一種。惑星探査機の電源として実用化され、体温と気温の温度差で発電した電力で動作する腕時計が開発されている。廃熱エネルギーの有効利用のため、より高効率でエネルギーを変換できる材料が求められている。歩くのが好きです。キャンパスや自宅周辺を歩いています。かつてはハイキング程度の山歩きを、今は散歩を好んでいます。3年ぐらい前には研究室旅行として吾妻小富士に行ったこともあります。研究室を飛び出してみんな広大な景色を見ながら「ただ歩く」というのも、気分転換になりいいですね。片平では広瀬川沿い、自宅では周辺の沼地の公園をよく散歩します。花壇の周辺の川縁など、新芽がふく頃は、とても気分がいいです。愛宕山からの眺めも壮観ですね。OFF TIME限られた資源をいかに有効に活用していくが問われる時代。山根研究室では、既知の材料にはない特性を持つ物質が潜んでいる可能性を、できるだけ毒性が低く入手し易い元素の組み合せから導き出そうとしています。新規多元系無機化合物の探索と、得られた物質の構造解析や特性評価を行い、それらの新しいセラミックス素材としての可能性を探求しています。21 TAGEN FOREFRONTTAGEN FOREFRONT22