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概要

TAGEN FOREFRONT 05

FOREFRONT REVIEW03ナトリウムを溶媒にするという発想広がる新規物質合成の可能性ナトリウムを用いて窒化物の新規物質を合成できないか?は酸素のない条件が必要で、窒化物の物質探査や材料開発は酸化物ほど容易ではありません。このため、今も多くの未開拓の物質領域が窒化物には残されています。窒化物の研究を進める上でのさらなる障害として、合成されるほとんどの窒化物が、大気圧下で溶融することなく昇華、または分解し、酸化物のような融液からの結晶育成が困難なことがあります。合成された物質の固体化学的研究において、結晶構造を明らかにすることは不可欠で、このために広く単結晶を用いたX線回折法が利用されます。そこで、窒化物の新規物質を単結晶で合成する方法が求められました。「今から20年前、文部省の在外研究員として10ヶ月間滞在したコーネル大学で、フランシス・ディサルボ教授より、窒山根研究室では、ナトリウムをフラックス(溶媒)として利用することで、新たな化合物群を合成する方法を確立しました。ナトリウムフラックス法は原理的に溶液成長の一種であり、他の手法と比較しても低温低圧で高品質な窒化物などの結晶を作ることができます。ナトリウム融液中で成長したシリコン単結晶化物の合成と単結晶作製にナトリウムをフラックスとして利用できないか、というアイデアを頂きました。最初は半信半疑でしたが、数種類の金属原料にナトリウムを加えることで、幸運にも滞在中5つの新規化合物を合成し、それらの結晶構造を明らかにすることができました。その中には、シリコン原子を4配位した窒素原子の四面体が両共有した構造を有するバリウムとシリコンの窒化物(Ba5Si2N6)や、ジントルポリアニオンと窒化物陰イオン基が混在する新規物質(Ba3Ge[GeN2])など、それまでの窒化物にはない特異な構造や、新たな構造単位の組み合わせを有する物質が発見され、これらは多元系窒化物の研究のさきがけとなりました。また、ナトリウムのフラックスがあまりにも有効だったことから、その反応機構にも興味がもたれ、より単純な2元系窒化物の生成も調べてみました。その結果、ナトリウムフラックスで窒化ガリウムの単結晶が得られることをみつけました。ディサルボ教授も私も、それが大きな発見とは全く認識していませんでしたが、帰国後、多くの方々に関心をもって頂き、10年以上の長き渡り、窒化ガリウム単結晶育成に関する基礎研究に取り組むことになりました」。ナトリウムフラックス法で作製された新規窒化物Ca4SiN4の結晶構造。酸化物のK4SiO4のカリウム原子がカルシウム原子で、酸素原子が窒素原子に置き換えられた構造となっている。窒化ガリウムの結晶成長ナトリウムフラックス法として確立窒化ガリウムは、近年、青色発光ダイオードの実用化で注目され、省エネルギー効果の大きい高効率照明や電気自動車用の高出力高温動作トランジスターなど様々な用途への応用が期待される半導体素材です。窒化ガリウムのポテンシャルが最大限に引き出された高性能デバイスを開発するためには、結晶欠陥密度の低い、高品質な窒化ガリウム基板結晶の実現が必要とされています。窒化ガリウムも他の窒化物と同様、大気圧下では高温で分解します。半導体で広く用いられているシリコン(ケイ素、Si)のように融液から単結晶を成長させためには、融点の2220℃まで加熱するとともに、分解を抑えるために6万気圧の窒素ガス圧力が必要となります。この条件では現実的に基板材料を製造するわけにいきません。しかし、ナトリウムを利用する方法では、50気圧程度の窒素ガス圧力と700℃付近の温度で単結晶を育成することができます。ナトリウムフラックス法で作製された新規窒化物Ca5Si2N6の結晶構造。窒素原子の四面体の稜が共有されている。シリコンを含む酸化物で、このような稜共有の構造は知られていない。「ほとんどまともな実験設備のない状態からのスタートでした。まずは、ナトリウム中で窒化ガリウムの結晶成長が確かに起こることを示すため、再現性のあるデータを得るのに苦労しました。」やがてグローブボックス等の設備を整備することができ、結晶育成中に持続的に窒素原料を供給するための装置技術開発を行うとともに、結晶育成の温度圧力条件や融液組成と生成する結晶形態や結晶品質の向上に関する研究を進めました。結晶の溶解・再析出や種結晶成長、ナトリウムの蒸気を利用して結晶育成中の融液組成を調整し高品質な結晶の成長を持続させる方法など示しました。ナトリウムフラックス法による窒化ガリウム単結晶の製造に関する研究開発は、溶液法による大型単結晶育成がご専門の大阪大学の森勇介教授が中心となり、企業等の研究機関で続けられています。TERM INFORMATION多元系無機化合物化合物を構成する元素の種類が2つのものを2元系、3つのものを3元系とよぶ。ここでは3元系以上の元素の組み合わせからなる無機化合物を多元系無機化合物とする。フラックス電気回路のハンダ付けの際に用いられるハンダを溶けやすくする薬剤のように、物質の融点を下げる効果を持つもの。結晶育成では、作製したい結晶を溶解し、結晶の融点や分解温度よりも低い温度で、結晶成長させることができる溶媒。ナトリウム地球を覆う大気の中で、生命活動に欠かせない酸素の割合はおよそ20%です。普段、意識されることは少ないですが、残りのほぼ80%は窒素で、この数字を見ると、いかに窒素が多いかが分かります。地表には、金属と酸素が化合した多種多様な酸化物が鉱物として存在しますが、窒素と化合した物質(窒化物)の存在は、天然では隕石中などごく限られたものの中でしか知られていません。これは、酸化物の方が窒化物より安定なためです。人工的に窒化物を合成するために地殻に塩(NaCl)などの化合物として豊富に存在する元素。NaClの電気分解で製造され、室温では金属の固体。融点98℃、沸点約880℃。反応性が高く、容易に酸化される。低融点金属の中では、蒸気圧が高いことも特徴。ジントルポリアニオン13?16族の元素において、電気的に陰性を帯びた原子が結合して形成されたかご状や鎖状、網目状などの構造体。Ba3[GeN2]の中に存在する1∞[Ge2-]ジントルポリアニオン。希少資源や不足資源の代替物を探す。あるいはそれらを効率的に精製する方法を探す。豊富に存在する元素について従来とは異なる新たな利用法を開拓することは、資源の有効活用の観点で考慮する価値があると考え、山根研究室では日々研究を進めています。陰イオン基結晶構造内に形成される陽イオンと陰イオンから構成される電気的に陰性な一団。窒化物陰イオン基では、[SiN4]8?のように陽イオン(シリコンイオン)とその周りに結合した4つの窒化物イオンが電気的陰性な四面体形状の一団となっている。就寝時や車の中で、身近に音楽を聴くのが好きです。MY FAVORITECa5Si2N6を構成する窒化物陰イオン基[Si2N6]10-。SiN4四面体の稜が共有されている。主にクラシックの器楽曲が好みです。モーツァルトやベートーベンを中心にバッハやブラームスあたりぐらいでしょうか、たまにドビュシーやラベルなどのピアノ曲を聴くこともあります。ショパンは苦手です。コンサートに行くことはほとんどなく、CDやTVのコンサート番組で楽しんでいましたが、最近、YOUTUBEでいろいろな演奏が聴けることを知りました。このところはまっている曲は、ストラビンスキーのバレエ組曲「プルチネルラ」です。様々なオーケストラ版の演奏の他、ストラビンスキー自身の映像付き演奏や、バイオリン、ビオラ、チェロの独奏用に編曲されたものなど、あまりの数の多さに驚いています。多元系の金属窒化物など、大気中で不安定な物質は、金属チューブ内に不活性ガスとともに原料物質を密封し、加熱することにより、合成されます。19 TAGEN FOREFRONTTAGEN FOREFRONT20