ブックタイトルTAGEN FOREFRONT 05
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TAGEN FOREFRONT 05
FOREFRONT REVIEW02多彩な研究アプローチによりタンパク質を総合的に検証するタンパク質が働いているメカニズムを探る「私たちの体の中でタンパク質はどのように働いているのか。そこがいちばん基渡部聡助教。コンピュータを用いて、タンパク質の立体構造のモデリングを行っている。タンパク質の働きを理解するためには、タンパク質の立体構造を原子レベルで「目で見ること」が必要。立体構造を明らかにすることによって、タンパク質の機能やタンパク質同士の連係の様子を解明することを目指す。の機能が発揮されているのを細胞レベルで検証するには、そのタンパク質を発現している遺伝子を壊してみたり、少しタンパク質を変えたものを細胞に入れてやったりらは相互作用をしながらネットワークを形成することで、高次の機能が生まれるのです。たとえば免疫、あるいは記憶、これらは1つのタンパク質でできるわけではありません。その働きを行っているネットワークの全体像を解明する必要があります。タンパク質を精密に分析するためには、適切なタンパク質の試料調整や結晶づくりが欠かせない。生化学的手法による試料からの精製や、さまざまな手法による結晶作成など、質のいい試料づくりの積み重ねによって、質の高い分析が実現する。タンパク質というのは、遺伝情報に基づいて作られた複数のアミノ酸の連なりから成るポリペプチド鎖です。短いものでアミノ酸が数10個、長いもので1000個から数千個連なっています。タンパク質が生まれたての時には、こTERM INFORMATIONタンパク質のX線結晶構造解析タンパク質の立体構造を原子レベルで決定するための主たる手法の一つ。これを達成するまでに、1高純度に精製したタンパク質を様々な条件で結晶が出るか検討する、2得られた結晶をSPring?8や高エネルギー研究所などの放射光施設にもっていき、回折データを収集・解析する、3分子置換法や重原子同型置換法などにより位相を決定する、4電子密度をみながらタンパク質モデルを構築する、5決定した構造が立体化学の法則や観測データと合致するかを指標に、構造リファインメントを行う、などのステップがあります。全てのステップにおいて障壁があり、タンパク質のX線結晶構造解析を達成するのは一般に容易ではない。タンパク質によっては、何年かけても達成できないことも珍しくない。また世界的に競争が激しく、同じタンパク質をターゲットにしている研究者が常に複数いると思って遂行する必要がある。まさに実験センスと執着心と忍耐力が試される分野である。本的なテーマです」と、稲葉謙次教授は話し始めます。タンパク質がどのような働きをしているのかを探ろうとする時に、タンパク質の立体構造が決定できれば、タンパク質が働いているメカニズムがかなり見えてきます。立体構造だけではなく、立体構造をもとにアミノ酸に置換を加えたり、他の機器を用いて反応中にどのようにタンして、実際その細胞の働きがどう変わるか実験することによって、ほんとうのタンパク質の機能やメカニズムが見えてくるということがあります。このように、主にX線結晶構造解析によってタンパク質の立体構造と分子機構を研究し、細胞生物学的手法によってタンパク質の真の機能に迫ります。タンパク質についての、こうした研究アプローチをプロテオミクスと呼んでいます。「構造生物学・タンパク質化学とプロテオミクスのアプローチによって、細胞のタンパク質についてのメカニズムを網羅的、統合的に理解していこう、というのがこれからの分子細胞生物学に取り組む私たちの指針です」。形成できて初めて機能を発揮できるようになります。タンパク質の成長にとって、立体構造の形成はきわめて重要な意味をもちます。そこで細胞には、タンパク質がうまく自然に立体構造を形成できるように補助するシステムが備わっています。一方のポリペプチドがぶらぶらした不安定な状態でタンパク質としての機能を果たせません。細胞内の適切な場所で安定した状態、つまり特有の立体構造を形成できるように折りたたまれる必要があります。立体構造の安定性はまちまちで、30分ぐらいで分解に回される寿命の短いものや、安定して数カ月維持さ分子シャペロン細胞内で合成されたタンパク質が高次構造を形成する過程で凝集するのを防ぎ、正しい構造と独自の機能を獲得するのを助けるタンパク質群のこと。シャペロンとは、社交界にデビューする若い貴婦人に付き添う年上の女性を意味する。まさに合成された直後のタンパク質が細胞の中でデビューし、正常な構造と機能を獲得するよう促すという意味で、分子シャペロンと名付けられた。パク質が変化しているのかをリアルタイムに観察しながら、タンパク質のメカニズムの本質に迫ります」。「タンパク質の研究において、もうひとつ大事なのは、タンパク質は他のタンパク質や他の分子と協働で働いているというこ立体構造を形成して初めて機能を発揮でうまく立体構造を形成できずに不良品になるものもあり、それを分解除去しようとするシステムもあります。「正しいもの、正しれるものもあります。タンパク質の立体構造形成の段階で重要な役割を果たしているのが、分子シャ一方で、実際の細胞の中でメカニズムと」と稲葉教授は話します。つまり、それそのようなアプローチによって、それでくないものを見分ける仕組み、まさに品質ペロンという細胞補助因子です。自らもタは何を探求するのでしょうか。「それは、管理がどのようなメカニズムで作用していンパク質ファミリーですが、多くのタンパクタンパク質の立体構造形成の仕組みを解き明かすためには、何らかの方法で作成したタンパク質の結晶を回折測定する。左はタンパク質の結晶。右は電子密度解析による、タンパク質の立体構造を反映した電子の集まり。これを利用してコンピュータ上で構造モデルを組んでいく。タンパク質の品質管理。細胞の中でタンパク質の品質管理がどのように働いているか、を研究します」と、稲葉教授は答えます。タンパク質は、合成直後はきちんとした立体構造を形成できずに、まだ機能を発揮できない状態です。正しい立体構造がるのか、その解明に取り組んでいます」。重要な役割を果たす分子シャペロンタンパク質品質管理の解説の前に、少しタンパク質の基本についてふれておきましょう。質が立体構造形成をしていく過程でアシストしています。「私たちは、これら細胞が備えるタンパク質の立体構造形成促進のための作用システムを、生化学、分子細胞生物学的手法を駆使して、徹底的に研究しています」。スポーツで鍛えた「負けるもんかスピリット」で、研究も乗り越えたいMY FAVORITE中学ではバレーボール、高校では陸上、大学ではテニス、研究者になってからもテニスやソフトボールと、常にスポーツをしてきました。そして東北に来てからはスキーも20年ぶりに始めました!中学、高校のクラブでは、京都府大会で2位や3位に入り、表彰されたことも(残念ながら優勝はできませんでしたが…)。特に、中学のバレー部で一緒だったエースの選手は高校で京都代表に入ったり、ライバルのチームで全日本に入った選手がいたりという環境の中で、けっこうハードな選手生活を過ごしていました。多元研に着任してから娘の小学校のPTAのバレーボール大会で、張り切りすぎてアキレス腱を痛めてしまったという笑い話があります。自分が活躍するイメージは昔のまま、体がそれに追いつかない状態でした。研究には競争もあるし、実験には根性も必要です。うまくいかなくて辛いときがあっても、負けるもんかと、自分もみんなもがんばりましょう。稲葉研究室のメンバー。メンバーになる条件は「細胞が備える巧妙なタンパク質品質管理システムを分子構造レベルで解明したいという強いモチベーションがあること」。化学専攻からでも生命科学科からも幅広く門戸を開いている。13 TAGEN FOREFRONTTAGEN FOREFRONT14