ブックタイトルTAGEN FOREFRONT 04
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TAGEN FOREFRONT 04
機能と構造の両輪での分析が必要ですが、現状ではナノレベル生体分子の計測においては、電子顕微鏡等による構造分析のみが先行している形になっています。石島研究室では「機能」に重点を置いていて、動く生体分子の機能を明らかにするべく、日々研究を進めています。二つ以上のパラメータを同時に計測する手法TERM INFORMATION生体運動タンパク質のエネルギー変換機構生体運動タンパク質は、ATP加水分解やイオン濃度差などの化学エネルギーを利用して、変位や力などを発生させ、様々な生体運動を駆動している。この化学エネルギーから力学エネルギーへの変換機構は、ナノサイズで太古から生物が利用してきたものであるが、ノイズ程度の微小な入力エネルギーで動作するという、人工機械とは異なる特性を持っている。「我々が望むのは形状ではなく機能です。静止画ではなく、機能を解明する手がかりになる動画を撮りたいのです。機能と構造、これは車の両輪のようなもので、片方だけではだめだと考えています」。石島研究室では「機能」に重点を置いていて、光学顕微鏡を使って動く生体分子の機能を明らかにできないかを考えています。「光学顕微鏡はナノレベルまで計測能力を上げるために、学生の時から新しい機器の開発に取り組んできました。一般的な光学顕微鏡の分解能とは、2点が近づいていった時に、どの程度まで2点として識別できるか、というものですが、この考えでは、光学顕微鏡をナノレベルまで計測できません。そこで考えたのが、画像としてではなく、像の重心位置で識別するというもの。これによりナノレベルの精度の高い計測が可能になりました」。また、石島研究室では、1分子レベルで計測するという研究方針を掲げています。なぜ1分子レベルでの研究が重要なのでしょうか?「例えば、筋肉の収縮。主にミオシンというタンパク質とアクチンというタンパク質がお互いに相互作用して筋肉を収縮させるのですが、先人たちは、何億という分子の総和、平均から一個一個の性質を明らかにしてきました。それなら1個の分子を直接見て、観察できればいいじゃないかというように考えていったのです」。石島研究室では、研究者自らが計測装置の改良・調整を行います。自らの手で改良に改良を重ねた計測装置を用いて、運動タンパク質の動作原理、情報伝達機構の解明を目指しています。1990年代からの生体分子の1分子計測、イメージング技術の発展によって、生体分子の挙動を1分子レベルで観察・計測できるようになってきました。生命現象をより定量的に理解できるようになるための環境が揃ってきたと言えます。「しかし、一つの現象のみを計測して、その奥に潜む原理を推論することはなかなか困難な作業です」。いかに、主観、希望の混入をなくし、定量的に計測していくか?システムとしての生命現象を全体として理解していく方向に舵をとらなくてはいけないといいます。石島研究室が採用する手法は、二つ以上のパラメータを同時に計測するというものでした。「例えば98年に発表したアクトミオシン相互作用の力学・化学反応の同時計測。さらには近年力を入れている細胞内情報伝達機構の解明においては、同一細胞上の二つのべん毛モーターの回転の相関、回転と回転基部体への標識タンパク質の結合、セリン刺激とべん毛モーター回転変化との相関など、二つ以上のパラメータを同時に計測する手法が多くなっています。これにより正確に定量的に現象を捉えることが可能になります」。生体運動タンパク質ATP加水分解やイオン濃度差などの化学エネルギーを使って、細胞内小胞輸送や筋肉の収縮、細胞運動などを駆動するタンパク質。リニアモーターとして、微小管上を動くキネシンやダイニン、アクチンフィラメントと相互作用するミオシンが知られている。回転運動するモーターとして、F1F0-ATPaseやバクテリアべん毛モーターが知られている。レールタンパク質生体運動タンパク質の中でリニアモーターは、レールタンパク質と相互作用を行い、レールタンパク質に沿って直線的に移動する。レールタンパク質は、球状タンパク質が重合したものであり、チューブリンが重合した微小管やアクチンが重合したアクチンフィラメントが知られている。レールタンパク質は、リニアモーターの「レール」として機能するだけではなく、細胞を力学的に支える細胞骨格でもあり、さらには重合そのものによって細胞運動を引き起こすモーターとしても機能する。光学顕微鏡の分解能微小な2点(例えば点光源)を、見分けることができる最小の長さを光学顕微鏡の分解能と呼ぶ。分解能は、対物レンズの開口数と光の波長に依存するが、可視光を用いた場合は、0.2um程度である。アクトミオシン相互作用筋収縮では、ミオシン分子がアクチンフィラメントと結合解離しながらATP加水分解反応を行うことで運動を引き起こす。このような化学的であり力学的側面も持つアクチンとミオシンの相互作用は、アクトミオシン相互作用と呼ばれており、筋収縮に限らず、細胞内輸送に関わるミオシンなどでも用いられている。セリン刺激大腸菌はセリンに対する受容体を持ちセリンに対し誘引応答する。セリンを認識した大腸菌は走化性シグナル伝達機構を用いて運動器官であるべん毛モーターの回転方向を反時計方向に制御し、セリン濃度の高い方向へ向かう。TAGEN FOREFRONT 20