ブックタイトルTAGEN FOREFRONT 03
- ページ
- 15/52
このページは TAGEN FOREFRONT 03 の電子ブックに掲載されている15ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは TAGEN FOREFRONT 03 の電子ブックに掲載されている15ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
TAGEN FOREFRONT 03
TERM INFORMATIONナノサイエンス10億分の1メートルが1ナノメートル(nm)。数nmから数百nmにおける原子あるいは分子の集団としてのナノ構造と物性を解明する学問で、これまでの物理学、化学、生命科学、工学が融合した新しい分野と言える。また、この原子・分子集団のナノ構造構築とその制御、解析のための技術がナノテクノロジーである。このナノサイエンスは、ナノテクノロジーとともに、今世紀における情報・通信、医療、環境・エネルギー資源などの社会的課題の解決に向けて期待される学術領域でもある。有機ナノ結晶有機分子から構成される分子結晶で、その結晶サイズがナノメータ程度(多くの場合は、約10 nm以上から200 nm程度以下)にある。単独の有機分子とも、対応するバルク結晶(後述)とも異なり、結晶サイズに依存した興味深い光・電子物性や反応性を示す。再沈法一般に耐熱性が低い有機分子から構成される有機ナノ結晶を穏和な条件で作製するための手法。有機分子を良溶媒中に溶解した希薄溶液を、良溶媒と無限希釈可能な対象有機物質の貧溶媒に注入すると、有機ナノ結晶が分散液として得られる。作製条件を最適化することで、結晶サイズや形状の制御が可能となる。溶媒溶液の構成成分の内、概して多量に存在する成分を示す。その他の成分を溶質と言う。溶質に対する可溶化が高い溶媒を良溶媒、逆に低く、溶質の沈殿・析出を引き起こす溶媒を貧溶媒と呼ぶ。再沈法は、溶質有機分子の良溶媒と貧溶媒に対する溶解度差を利用した作製手法である。超臨界物質の臨界点を超える高温・高圧状態では、気体と液体との区別がつかない超臨界状態となり、これを超臨界流体と言う。超臨界流体は溶媒としての優れた性質を示す。ここでは、再沈法の原理に基づいて、難溶性有機分子を超臨界流体に溶解した後、貧溶媒と混合し、有機ナノ結晶を作製する。バルク結晶バルク結晶はその結晶サイズが無限大で、結晶表面が存在しないと定義される。実際には、結晶の構成物質に依らず、結晶サイズが概ね数マイクロメータ程度以上であれば、結晶表面からの結晶構造や物性への影響は無視でき、バルク結晶と言える。が一般的でしたが、有機化合物の場合は基本的に熱に弱く、不安定なため、これらの手法は使えません。あくまでも常温・常圧での実験が基本です。中西研究室が考案したのは、「再沈法」という方法でした。化学の世界では非常にベーシックなこの再沈殿・再析出という現象を用いて有機ナノ結晶を創製するという着想に至ったのは中西研究室が最初であり、まさに先駆的研究と位置付けられるものです。汎用性に優れた手法により有機ナノ結晶の先端的研究へ ある有機化合物を、溶けない溶媒の中に入れれば沈殿します。ふつうに行うとただ瓶の底に沈んでしまうだけですが、たとえばアセトンなど溶けやすい溶媒に溶かした溶液を、溶けにくい溶媒の中に速やかに注入したり、うまく設定をしてやると、微小な粒子となって浮遊している状態、つまり有機ナノ結晶の分散液が得られるという、非常に簡便な手法が再沈法です。 これが基本になって、対象とする有機物質・材料の範囲を広げていく段階で、再沈法の原理に基づくさまざまな派生的な手法が開発されることになりました。結晶化しにくい有機物質や、うまく溶かすことができない有機物質では、たとえば超臨界溶媒に一度溶かしてから水とアセトンの混合液に注入する方法があります。またイオン性の有機色素は、逆に水によく溶けるので、エタノールで溶液を調製して、シクロヘキサンなどに注入して、イオン性有機色素のナノ結晶をつくることができます。これらのさまざまな手法の開発により、広範囲の共役有機分子のナノ結晶化が可能になってきました。 「大きいバルク結晶と言われているものは、すでに固体物理学や固体化学の分野でかなりよくわかっていた。一方、有機分子の構造と性質も分子科学の分野でよく解明されている。しかし、その中間の領域でどんな構造をとったり、どんな性質を示すのかということは、基本的にまったく当時はわかっていなかった。だからまったく新しいサイエンスの領域を切り開いてみようというのがベーシックな意図でした」と及川英俊教授は振り返ります。左/試料観察には、サイズ・形状の把握を目的とした走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)、動的光散乱法(DLS)が、内部の結晶構造の解析には粉末法X線回折(XRD)や透過型電子顕微鏡(TEM)、電子線回折(ED)が活用されます。右/LC-MS(液体クロマトグラフ質量分析計)。微量な有機物質を精密に検出・同定する機能を有する分析装置。ナノサイエンス、有機ナノ結晶を基本テーマとする研究室のステージに、有機化学、分析化学、高分子化学、錯体化学、物理化学などのさまざまな分野からの大学院生が参画し、それぞれの多彩な研究テーマに取り組んでいます。TAGEN FOREFRONT 14