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概要

TAGEN FOREFRONT 03

先駆的役割をはたした再沈法による有機ナノ結晶の創製MY FAVORITE何かを探求し続けること。好きだから続けられること 意外に思われるかもしれませんが、大学は文系に行くということも考えた時期がありました。文系の、その先の進路ということになると、ジャーナリストのような仕事をしてみたいと、漠然とですが。本を読むことが好きだったので、何かを自分で取材したり、いろいろ調べたことを書物にしたり、あと何よりもジャーナリストをしていると何か世の中が劇的に動く、そんな瞬間に立ちあえるかもしれない。そんなことを思っていたんだと思います。思っただけですよ。 結果的には、理系の世界で、今でも何かを探している自分がここにいます。有機ナノ結晶研究の先駆的時代に開発された再沈法は、その後、さまざまな発展形が考案され、より幅広く、より高度な作製制御が可能となりました。図は、大量作製および高度なサイズ制御を図るため、無脈流シリンジポンプとマイクロ波照射プロセスを導入したケース。まだ知られていなかった有機ナノ結晶 1991年、東北大学に中西八郎教授(現・東北大名誉教授、東北大監事)が着任した時、研究室にいたのが及川英俊助手(現・多元研教授)と大学院生の笠井均君(現・多元研准教授)。有機ナノ結晶の研究は、この3人によって始められました。中西教授は、東北大ではナノサイズの有機・高分子結晶や擬似分子科学の研究に着手しようと考えておられました。一方、及川助手はちょうど高分子材料化学の分野で、高分子ゲルの膨潤媒が示す融点降下現象とゲル構造との関係に興味を持っていました。たとえば、単純な有機化合物であるベンゼンはだいたい5℃ぐらいで結晶化します。「冬、当時の仙台で寒い実験室に置いてある瓶の中でベンゼンが凍っていました。ところが高分子ゲルの中にあるベンゼンは温度が0℃ぐらいに下がっても凍らない。こうした融点が下がる現象がどうして起きるのだろうか」と考えていました。確立されていた希薄溶液論では説明できない大きな融点降下でした。 高分子ゲルの構造と関連しているのではないか。すなわち、瓶の中でベンゼンの結晶ができるのとは異なり、高分子ゲルという制限された微小空間内でベンゼンの結晶成長が妨げられるから融点が下がるのではないか。こうした推論が立てられました。しかし、小さな結晶が高分子ゲル中にありそうだということは頭ではわかっても直接の証拠があるわけではありません。「当時は光散乱法と膨潤媒の熱物性測定が主な手法でした。このような私の研究におけるキーワードと手法の幾つかが符合し、早速、光散乱法による有機ナノ結晶の結晶サイズ評価という分担で共同研究者として参画しました」。このように、中西教授との出会いが、現在までに至る有機ナノ結晶の研究の出発点でした。未踏の領域を開いたのはベーシックな再沈法 1991年当時、いわゆるナノテクノロジー、ナノサイエンスという言葉はまだ社会の中に広がってはいませんでした。有機分子から構成される分子結晶の分野において、ナノサイズの分子結晶を作製することによって、通常とは異なる結晶構造や特異な物性、化学反応性が現れたりする「有機ナノ結晶」という概念は、ほとんど未踏の領域でした。「ただそれより約5年から10年先行して、半導体や金属におけるナノ結晶の研究はすでに展開されていたので、それに刺激を受け、有機ナノ結晶分野の新しい地平を切り開こうというのが、中西研究室の意気込みでした」。 先行していた金属や半導体の研究においては、対象物質が熱に強いため、高温加熱操作を伴う真空蒸着法や溶融析出法などによってナノ結晶を作製すること02FOREFRONT REVIEWTAGEN FOREFRONT 13