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概要

TAGEN FOREFRONT 02

炭素を大量消費する時代から炭素を材料として利用する時代へダイヤモンドやグラフェンなどのナノ炭素材料の気相合成における表面反応機構の解明と制御の研究。高品質ナノ炭素材料合成の量産化ために光電子制御プラズマプロセスを開発しています。TERM INFORMATION負性電子親和状態電気が流れる伝導帯の最低エネルギーよりも、真空準位がより低くなった状態。固体表面が負性電子親和状態になると、電気伝導に関わる電子が表面から飛び出してくるため、固体から効率的に電子を取出すことが可能になる。局所プラズマ基板付近に限定して発生させたプラズマ。プラズマとは気体がイオンと電子に分かれた状態である。一般的なプラズマプロセスでは、プラズマが装置内全体に発生するため、プラズマ状態の維持には大量のエネルギーを必要とする。一方、局所プラズマではプラズマの体積が小さいため消費電力が小さく、また基板以外の場所(例えば装置の内壁など)に膜が生成しないという利点がある。ナノチューブ直径数nm以下の筒状の構造を持つ物質のこと。炭素でできているカーボンナノチューブは日本人によって発見され、エレクトロニクス分野や航空機のボディなど現在様々な分野で利用されている。テラヘルツレーザー振動数が0.3?10THzのレーザー。波長はマイクロ波と遠赤外線の中間である。テラヘルツレーザーは生体や水などの有機材料は透過するが、金属などの無機材料に吸収されるという特徴がある。これを利用して空港の手荷物検査などへの応用が期待されている。これまで、テラヘルツのレーザーを発生させることができなかったが、近年グラフェンを用いたテラヘルツレーザーの開発が進められている。バンド対称性固体のバンド構造において、電子が詰まっている価電子帯と電子が詰まっていない伝導帯の形が対称になっていること。この性質を持つ固体では両極性のデバイスを作製することができ、テラヘルツレーザーなど従来の半導体では達成できなかった応用が期待される。次世代CMOS集積回路CMOSは「相補型金属酸化物半導体トランジスタ」の略称で、パソコンやスマートフォンなど最先端電子機器に利用されている。現在のCMOSは主にケイ素および酸化ケイ素からできている。次世代のCMOS研究開発ではグラフェンやゲルマニウムなど新たな素材を利用することや、3次元形状のフィン型トランジスタなど新しい形状のCMOSトランジスタの開発が進められている。これらを総称して次世代CMOSと呼び、現在産官学を挙げて開発が進められている。光電子制御による局所プラズマCVD法 「従来のプラズマ法ではどうしても大きなプラズマが発生してしまい、効率が悪い状態でした。それならば発想の転換で、基盤表面を電子源にしてほわーと弱いプラズマを作ったらどうか? 基板サイズのプラズマができるので無駄もなくなりますし、壁も汚れないという一石二鳥です。」 真空雰囲気に保持された基板表面を負性電子親和状態に維持し、炭素源ガス及び水素ガスを基板表面に供給しながら基板表面に紫外線を照射します。基板に負のバイアス電圧を印加することにより、基板表面からの負性親和力による電子をバイアス電圧で加速し、基板表面近傍の炭素源ガス及び水素ガスを電子衝撃励起して局所プラズマを発生させます。吸着水素が除去された基板表面にダイヤモンド薄膜を成長させていきます。 「この結果、基板表面からの電子放出によって水素を原子状水素にできるため、従来法に比較して格段に速い速度でダイヤモンド薄膜が成長していくことに成功しました。」 開発した光電子制御プラズマCVD法によって、1カラットダイヤモンドに対して、現在までは、毎時1~10マイクロメーターという成長速度だったものが、最大で毎時120マイクロメーターの高い成長速度も得られるといいます。 局所プラズマのため、消費電力が少なく、真空槽への煤堆積が少なく、メンテナンス頻度も低くてすみます。また、大面積基板への展開可能となりました。 「不純物の混入がないため、高品質のダイヤモンド薄膜が得られます。創製されたダイヤモンド薄膜は、ダイヤモンドの特性である大きな熱伝導率とバンドギャップを活用し大出力デバイスや高温動作可能なデバイス等の材料として活用されています。また、ダイヤモンド表面が水素吸着によってNEA状態になることを利用し、高効率の電子放出源としても期待できます。」ナノ炭素材料を用い低炭素イノベーションの実現へ 「ダイヤモンドは地上で最高硬度高熱伝導度という特性を持っていますが、それ以外のナノ炭素材料もそれぞれの特性を持っています。グラファイトは高耐熱(3000℃)高熱伝導度、炭素繊維は軽量・高強度、グラフェンは最高の移動度、ナノチューブは高電流密度高引っ張り強度というそれぞれの特性を利用して、様々な産業利用が可能となります。炭素を大量消費・排出する時代から、炭素を材料として利用する時代へのパラダイムシフトしていくべきです。」 ナノ炭素材料がもたらすイノベーション例としては、電子デバイスとして高速・大容量通信技術、構造材料として軽量・高強度を兼備した省エネ材料・高強度・低摩擦特性を持つ低損失材料、熱伝達材料として精密な温度・熱制御による省エネ材料に活用できます。 「世界で初めてカーボンだけでトランジスタを作ることにも成功しています。また、グラフェンのバンド対称性を利用したテラヘルツレーザーなど大容量高速通信に生かせる光・電子デバイス開発などの、いろいろな展開が考えられます。」 その他、ヒートスプレッダ用大面積ダイヤモンド薄膜、LSI配線用カーボン材料、次世代CMOS集積回路用ゲートスタック材料など様々な機能性材料創製の道が拓けています。表面反応を理解して総合的な視点でものづくりに展開 表面科学のここ30年間より細分化することで急速な発展と高いレベルに到達してきました。この状況の中で、髙桑教授は総合的な視点を持つことも大切だといいます。 「例えば、Si表面酸化の極めて狭い分野に限っても、一方では体積膨張による歪みが計測されながら、他方ではそのような歪みは無視して酸化膜成長の大変に緻密なモデルが作られているように、細分化した領域の間での交流がない場合も多くあります。細分化することで学問の深化を図る一方で、統合的かつ相補的な理解に基づいて体系化を目指すことが重要性です。 現在、髙桑研究室では、表面反応を理解に基づいて、最先端のデバイスづくりにまで展開しています。サイエンス・テクノロジーとエンジニアリング、その両方にまたがった活動を行っています。 「次を見据えながら一歩一歩道なき道を行く感じです。そういう意味では登山に似ていてふとふりかえると結構登ってきているなと感じることもあります。脇から見ると何が楽しいのということをやっていますが、世界中でただひとりになってもやる。それが研究だと思っています。」07FOREFRONT REVIEWOFF TIME古本屋めぐり、分野を問わない乱読をしています 趣味は読書ですね。ジャンルにこだわらず、読んでいます。だから古本屋めぐりを良くしています。 どんどん本が増えていますね。下手な古本やより多いのではないでしょうか。研究室にも工学書以外の本をたくさん置いています。 学生によく言うことですが、週刊誌でもいいから、文字の書いてあるものを読みなさいと言っています。専門教育も大事なんですけど、教養であるとか、科学者としての倫理観を持つとか、市民であることを自覚するというような人になってほしいと思っています。 専門家として優れているだけでなく、まず人間として、そして社会人としての自覚と責任を果たす必要があると思ってます。光電子制御による局所プラズマCVD法。基板表面からの電子放出によって水素を原子状水素にできるため、従来法に比較して格段に速い速度でダイヤモンド薄膜を成長させることに成功しています。基礎科学のシーズの産業応用への展開と、産業応用のニーズからの基礎科学の研究テーマの発掘。基礎科学と産業応用のの橋渡しを目的とした研究活動を進め、低環境負荷の高度情報化社会の実現に貢献することを研究目的としています。TAGEN FOREFRONT TAGEN FOREFRONT 45 46