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概要

TAGEN FOREFRONT 01

失うものを極限まで少なくナノレベルの超低摩擦技術開発 「摩擦というものは至る所にあります。モノが動くとすべて摩擦が関係します」と語る栗原教授。 例えば、自動車。エンジン、タイヤ、パワーウィンドー、ドアロック、ベアリング…。あらゆるところで摩擦が発生します。 この摩擦によって様々な問題が生まれます。まずはエネルギーの無駄使い。エンジンやトランスミッションなどにおける摩擦によって失われるエネルギーは全体の20%だと言われています。 さらには、機械の損傷。機械の性能劣化、損傷、寿命の原因も、多くが表面・接触面に由来すると言われています。 「つまり、摩擦低減技術を開発することにより、燃費が向上するとともに、長寿命で高信頼・高品質な製品・機械を作ることができるわけです。保守作業を軽減し、安心・安全な社会にも貢献できます」。 摩擦低減技術は自動車分野をはじめ、あらゆる産業分野、生活環境における効率的エネルギー活用と安心・安全のキーテクノロジーであり、低炭素社会実現の観点からも極めて重要です。 実際、この20年間に摩擦技術の向上により燃費が15%も向上しています。 しかし、従来までの燃費向上は、数多くの現象の発見、工業上の体系的知識や経験的知恵にもとづくものだったと言います。  「摩擦を取り除く技術は基本的に経験に基づくものでした。例えば潤滑油の調合なども経験値によるものが主でした。これでは燃費向上にも限界が生まれます。これをブレイクスルーするために、ナノレベルで界面をしっかり評価し、合理的な設計ができるようにしたいと考えています」。 1ナノメートルは10億分の1メートル、すなわち100万分の1ミリ。この微少な空間で摩擦現象を解明して合理的な「低摩擦システム設計」ができないかを解明していくことが求められています。 栗原教授が世話人となっている東北発素材技術先導プロジェクトの中のひとつ「超低摩擦技術領域」にはナノテクノロジー分野の部局の研究者が集い研究を進めています。この領域でのミッションは、従来までの経験的な摩擦低減技術を、超低摩擦界面に着目したナノレベルでの物理・化学的視点で現象の解明をしっかり行い、マクロな摩擦機構の基礎的・理論的解明に基づいた・超潤滑システムのための設計指針の確立を行うというものです。 「摩擦は個別の材料の特性ではなく、特定の環境下で複数の材料からなるシステムが示す特性です。複雑系界面現象として原子・分子レベルでの解明が必要です。摩擦制御とはシステムとしての応答を理解し、それを要求する特性に制御することです」。摩擦って何だろう?経済活動まで左右する摩擦現象「油潤滑」「水潤滑」「固体潤滑」3 つの視点で摩擦現象を解明花や人形を置いてアットホームな雰囲気を作っています 花や植木などが好きです。見ているだけでリフレッシュできますし、幸せな気持ちになりますから。研究室にも花などをたくさん置いてます。 花と一緒に最近では、留学生が地元に帰った時などに人形を買って来てくれ、研究室に置いてくれます。各国のめずらしい人形もありますね。華やかな感じになります。 私もアメリカに留学していたので分かるのですが、やはり研究室のメンバーと家族のように仲良くなれるのはうれしいし、研究にも良い影響がありますよね。 アットホームな雰囲気の中で、チームワークをしっかりとした研究をしていきたいですね。蛍光分光法や電気化学計測との複合化にも取り組んでいます。測定法の高度化により、分子レベルでの理解が進み、最適な摩擦・潤滑のための分子設計への期待も広がります。独自に開発した手法としてツインパス型表面力・共振ずり測定装置などにより、表面や界面の分子レベルでの特性、ならびに物質及び分子間の相互作用を具体的に理解。摩擦発現技術、物質の界面評価・解析技術、計算科学技術を融合することにより、摩擦界面を科学的に理解し、その理論に基づいて研究開発を進めています。ナノメートルレベルで界面を評価し、原子・分子レベルで界面を理解し制御することが、新しい学術や材料やデバイスの革新的な高度化・高機能化に向けて求められており、このような考え方や目標を意識して界面を表すために用いられている用語。栗原研究室で強みとしているナノ界面評価法。これを支えるのが様々な独自開発された世界最先端の計測機器。新しい物性研究分野を拓いています。 「一言で摩擦と言ってもさまざまな摩擦があります。それぞれの界面素材特性によって摩擦現象を詳細に解明しなくてはいけません。超低摩擦技術領域では、油潤滑グループ、水潤滑グループ、固体潤滑グループの3つのグループが中心となって進めています」。 まず分かりやすいのが潤滑油やコーティングなどの「油潤滑」。自動車用潤滑技術として実用的な低摩擦技術です。油潤滑グループでは、潤滑油や添加剤、コーティング材料が、ピストンや軸受などの摩擦界面にどんな影響を及ぼすかなどの解析を行っています。 次に油を使わないので環境にもやさしいことで注目されている「水潤滑」。水潤滑グループでは、固‐液界面の特性を解明し、潤滑剤として水に適した添加剤の選定を行います。地熱発電や排熱発電における水蒸気回収効率の向上に貢献すると期待されている分野です。 最後に、高分子や複合剤によって固体同士での潤滑を目指す「固体潤滑」。固体潤滑グループでは、軽量型・省エネ潤滑技術真空機器や圧縮機をはじめ、鉄道、昇降機などの社会・産業システムへの適用を視野に入れて研究を進めています。ナノ界面固体と液体が接する界面で、原子・分子の吸着、バルクとは異なる分子構造や配列、化学反応などの現象が起こり、これらの現象を原子・分子レベルでの解明と制御が摩擦・潤滑における重要な課題となっている。固‐液界面「摩擦を科学する」学問技術領域。機械や部品における潤滑、摩擦、摩耗などを対象とする。トライボロジー(tribology)は,“擦る”を意味するギリシャ語「tribos」と、学問を意味する「ology」とをつなぎ合わせた造語。トライボロジー温室効果ガスのひとつである二酸化炭素の排出が少ない社会。現在の世界における二酸化炭素排出量は自然界の吸収量の2 倍を超えており、世界の温室効果ガス排出量は今後も引き続き増加すると考えられている。低炭素型社会、脱炭素社会ともいう。低炭素社会水を用いた潤滑システムで、油を用いる潤滑と比べて環境負荷が少ない潤滑として期待されている。セラミックスでは水を用いて摩擦係数0.001という低摩擦が報告されている。水潤滑潤滑剤として固体を用いる潤滑。PTFEなどの高分子薄膜、軟質金属、二硫化モリブデンや黒鉛などの層状構造化合物を用い、潤滑油やグリースが使用できない超高温、極低温、高真空、高圧下で使用されている。固体潤滑匠の技からの脱出摩擦をナノレベルで科学する