ブックタイトルTAGEN FOREFRONT 01
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TAGEN FOREFRONT 01
J-PARCに完成した極端条件下中性子構造解析装置SENJU(千手)。0.5ミリ角ぐらいの結晶で結晶・磁気構造解析ができると同時に多重極限環境下での構造解析や局所構造解析ができます。研究機器の進化が新しい科学技術の進化を生む注目されているマルチフェロイックの研究にも威力サイエンスは謎解き誰も解決できない謎解きをしたいさらに進化した機器で未知の研究ができるように山登りに新鮮な空気を吸う。犬といっしょに登ることもあります。 学生の頃から山岳部にいて、今でも山登りをしています。大自然の中で汗を流しながら身体を動かすことが好きなんでしょうね。夫婦で登ることもあります。さすがに本格的な登山はなかなかできなくなったので、日帰りでの登山が主ですね。安達太良や月山や鳥海山に良く行きます。 ゴールデンレッドリバー2 頭とも一緒にいったりします。この前も犬と一緒に鳴子に行ってきましたが、犬たちも自然の中で新鮮な空気を吸うと気持ちいいみたいですね。一頭の名前を風花というんですが、まさに自然の中が似合う犬たちです。磁石の性質はミクロに見ると電子が持つ磁気モーメントに由来する。強磁性はすべての磁気モーメントが同じ方向にそろった状態である。強磁性体としての磁石は古くから知られていたがなぜ電子が磁気モーメントを持つのかは長い間謎であった。コイルに電流を流したときに発生する磁気モーメント(電磁石)は電磁気学の発見の源となった。電子の持つ磁気モーメントは量子力学における新しい自由度スピンとして導入された。これは、空間回転を2周しないと元に戻れないという自由度として説明されている。 さらに2つ目は、温度・磁場・圧力・電場・光(レーザー)照射などの多重極限環境下での構造解析や局所構造解析ができることです。 「極限環境を実現することで異方的な外場応答についての情報を得ることもできます。このように、最新のJ-PARCの装置は同種の定量構造解析装置群とは全く異なるサイエンスの方向性を目指す装置として各方面から期待されています」。 「私が興味を持つのは、簡単には分からない現象です。例えば、マルチフェロイック物質の反強磁性の仕組み。全体では磁性を持っていないのですが、中では複雑な磁気構造を持っているわけです。これを調べることは難しいのですが、新しい高性能な機器を作ることでその全体像が見えてくるわけです。サイエンスとは謎解きです。誰もできない謎解きをする喜び。今までにない装置を開発すれば、その謎を研究することができるわけです」。 誰も作っていない機器を作る。その研究をもとに誰も作っていない物質を作る。新しい物質を作って物性を調べる研究者、なぜこうなっているかと構造を研究する基礎的な研究者、その構造を調べる機器を開発する研究者、これら全ての研究者が同等に必要だと野田教授は語ります。野田研究室で作られた機器と様々な素材の創製を研究する研究者とのコラボレーションにより、新しい素材開発への期待が広がります。 「さまざまな環境下で物質の種類や構造、性質を詳しく知ることができれば、新薬開発といった生命科学への利用や、地球の構造等を知る地球科学、高性能電池材料の局所構造解析といった環境科学への利用など様々に展開できます。我が研究室で開発した研究機器を元にした構造物性の解明によって、様々な分野で基礎研究から応用研究、産業利用に貢献できることを期待しています」。 「物質の電子や原子の構造のみを研究しているわけではありません。磁気についても構造の研究を行っています。中性子回折の最大の利点は物質の磁気構造の解析ができるという点です」。 一般的には聞き慣れない「磁気構造」という言葉。野田教授は磁気構造とは格子点上の磁性原子の磁気モーメント(電子スピン)の配列の仕方だと言います。 「外場のない場合でも、自発的に同一方向に秩序を示す物質がありますが、これをフェロイック(ferroic)といいます。強磁性(ferromagmetic)、強誘電性(ferroelectric)などがありますが、さらに面白いことに、隣り合うスピンがそれぞれ反対方向を向いて整列し、全体として磁気モーメントを持っていない反強磁性(Antiferromagnetic)というものがあります」。 この反強磁性相転移と強誘電相転移が同時に起こることで今世界的に注目を集めているのが「マルチフェロイック」です。磁気秩序や誘電秩序などの多数の秩序状態が同時に起こる物質をいい、現在様々な研究室で最先端の研究が進んでいます。 「 マルチフェロイック物質では、異なる秩序状態の相互作用により磁場による電気分極の応答や電場による磁化の応答など新奇な応答現象が見られます。新たな物質開拓や新たなセンサー・デバイスへの応用など今後の展開が期待されています」。 「現在も、さらに新しい機器を作ろうと韓国と一緒に開発もしています。一番新しい装置はJ-PARCに作っている極端条件下中性子構造解析装置SENJU(千手)です。震災の直前にほとんどできていたのですが、震災ですべて壊れてしまいました。再度作り直し現在完成しています」。 この新しい解析装置の特徴は大きく分けて2つと言えます。まず微少な結晶で解析ができるということです。 「従来の中性子回折だと2ミリの結晶が試料として必要でしたが、なかなか大きな結晶を作ることは大変です。もっと小さい結晶で調べられると助かるという声もあり、最新型では0.5ミリ角ぐらいの結晶で磁気構造解析ができる形になっています」。磁気モーメント(電子スピン)強誘電性と強弾性の二つの「強秩序」が同時に発生する現象は早い段階から知られており、その両者の結合は電歪効果とか圧電効果としてよく知られ、様々な分野に応用されている。一方、磁気モーメントと電気分極の結合は「電気磁気効果」という名前で呼ばれていたが電磁気学に由来する非常に微小な効果しか見つかっていなかった。シュミットが相津の用語「フェロイック」を拡張して、雑誌ferroelectricsの電気磁気効果の特集号の序文に、同時に二つ以上の「強秩序」を持つ物質をマルチフェロイックと呼んだのがこの言葉の始まりである。マルチフェロイック物質磁石は磁気モーメントが一斉に同じ方向を向いた強磁性体である。物質の中には磁気モーメントが互い違いに逆方向に並んだ反強磁性体やスパイラル状にぐるぐる回った配置を取ったりサイン状に大きさを変えたりと様々な構造を取ることが知られている。結晶構造解析に対応して、磁気モーメントが結晶内でどのような構造を取っているかを調べるのが磁気構造解析である。磁気構造強磁性体(ferromagnetic)、強誘電体(ferroelectric)、強弾性体(ferroelastic)は秩序変数に対応する自発磁気モーメント、自発分極、自発歪みが同じ方向を向いた状態であり、かつ外場で反転する性質を持つ。これらの性質と対称性を議論したのが日立中研にいた相津敬一郎であり、フェロイックという言葉も彼の造語である。「強秩序」という訳語が用いられることもある。フェロイック温度を下げていくと今まで原子の熱振動で押さえられていた性質が表舞台に現れることが良くある。同じように圧力を上げていくと原子間距離が短くなって新しい性質が現れたりする。温度と圧力空間での相図、温度と磁場空間での相図、温度と電場空間での相図は、物質の状態を理解するのに欠かせない。さらに拡張して、たくさんの極限状態を同時に実現すると今まで知られていなかった性質が現れることが期待される。多重極限環境東海村に高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構(JAEA)により建設された陽子加速器を用いた研究施設の略称である。Japan Proton Accelerator Research Complex大強度陽子加速器施設。実験装置群に対応する施設としては、中性子とミューオンを発生して利用する物質・生命科学実験施設(MLF)、高エネルギー素粒子実験を行うハドロン実験施設、ニュートリノを発生して利用するニュートリノ実験施設がある。J-PARC野田研究室で開発された構造物性を解析する最先端機器と様々な素材の創製を研究する研究者とのコラボレーション。様々な分野で基礎研究から応用研究、産業利用に貢献できることが期待されています。「千手」で初ビームがでた時、全国からの参加チーム面々の喜びの顔です。有機物の中にも強誘電性や磁性を持っているものがあります。有機物のスピンの状態をX 線と中性子の両方使って始めて見ることができています。マルチフェロイック物質YMn2O5の磁気構造。磁気モーメントがくるくると巻いており、そのために電気分極が発生する。