- 環境科学辞典(荒木ら 1990,東京化学同人)&化学屋のコメント
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二酸化炭素
炭酸ガス、無水炭酸。CO2、分子量44.01、融点-56.6℃、沸点(昇華点)-78.
5℃(1気圧)。対空気比重1.529、0℃における気体密度1.977g/L。無色無
臭。わずかに酸味を感じる。常温では気体、低温加圧で液化する。これを一
部気化させて蒸発潜熱で雪状化し。それに液化物を少量加え加圧固形化した
ものがドライアイス(固体炭酸)である。気体は水に溶けやすく、1気圧、
0℃で0.3346g/100g、10℃で0.2318g/100g、20℃で0.1688g/100g溶け、エタ
ノールには水より約2倍容溶ける。
化学的には活性は低いが、金属の酸化物
や水酸化物とはよく反応する。水に溶けて炭酸H2CO3を生じ、1気圧下では
pH3.7の水溶液となる(村松注:現在の大気平均CO2濃度から算出される水の
pHは、5.7。つまりこれよりpHが低い雨が酸性雨と呼ばれる)。高温で気体は
熱解離して一酸化炭素COと酸素O2を生じ(村松注:概ね1000℃以上のお話な
ので考慮しなくてよい)、また赤熱炭素に触れてCOに還元される(村松注:
C+CO2→2COという反応。COの不均化の逆反応。これも大気中のCO2濃度から鑑
み、考慮しなくてもいい量。ただし、炭の不完全燃焼で、2C+O2→2COという
反応はよく知られ、COは意外に安定なので、冬場CO中毒による事故が後を立
たない)。
二酸化炭素は自然大気中に約0.033%含まれる(村松注:ここ数十年で急速に
増えており、地球温暖化ガス=Green House Gasの一つとしてその削減が求め
られている。なお、Green House Gasは元来は良い意味で使われた)が、化石
燃料の大量消費と植生破壊による二酸化炭素循環の平衡破綻(村松注:破綻
とまでは言いきれないのではと思う。物理化学的に言えば単なる平衡の移動
と考えてもいいのではないか)は、毎年約0.8ppmの割合で大気中二酸化炭素
のバックグラウンド濃度を増大しつつある。この増大は地球気圏の温室効果
として将来に懸念を生じさせている。
二酸化炭素は工業的に大量に用いられているが、その放出場所が換気不良な
場合は、気中二酸化炭素増加に酸素欠乏が伴う。ドライアイス使用冷蔵庫、
発酵タンク、酸処理後の炭酸ナトリウム中和過程、炭酸ガス消火器の誤放出
などで、高濃度二酸化炭素、低酸素による事故が起こりやすい。
二酸化炭素は生体細胞内でのエネルギー利用の最終産物として排出され、血
液を介して灰から呼気中に放出される。呼気中には3〜4%の二酸化炭素が含
まれる。吸気中の0.03%の二酸化炭素は血液のpHを約7.4に保つのに寄与して
いる。気中二酸化炭素が欠乏すると、血中二酸化炭素が低下し、pHは上昇し
てアルカローシスに傾き、呼吸は浅く遅くなり、また脳血管収縮による軽い
脳の酸素欠乏を引き起こす。
吸気中二酸化炭素増大は血中二酸化炭素上昇で血液pHを下げ、血管拡張と呼
吸中枢刺激による呼吸深大とが起こる。気中二酸化炭素濃度1%で呼吸深度は
やや増し、3%で呼吸増大と顔面温感、4%で眼および上部気道刺激感、顔面
紅潮、頭痛、めまい、耳鳴、徐脈、血圧上昇、6%で頻呼吸、熱感、皮膚血管
拡張、悪心、嘔吐、7〜8%で肺うっ血、呼吸困難、10%以上で意識障害、呼
吸停止、死の危険(村松注:酸素が十分にあっても二酸化炭素濃度により中
毒が起こるので要注意。一般に酸欠ととられることがあるが、全く違うもの
である。脚注参照)。
吸気中の二酸化炭素増大は体内二酸化炭素排出が阻害され、血中、細胞中の
二酸化炭素蓄積により、特に脳神経中枢細胞内の二酸化炭素蓄積は、その活
動を抑制し、麻酔効果を現す(村松注:二酸化炭素を5%含んだ空気を30分
間吸い続けるとその場から脱出することが難しくなると聞いた<高圧ガス講
習会の伝聞>。1997/7/12の青森・八甲田山の田代平での自衛隊員の中毒事
故、1986/8/23のカメルーン共和国ニオス村での事故が痛ましい。前者は火山
ガス、後者は湖水中から炭酸ガスの大量気化が原因と見られる)。
気中二酸化炭素の化学分析法には水酸化バリウムと二酸化炭素の中和反応を
利用したバリット法がある。簡便法としては検知管法、迅速法として干渉計
法がある。連続測定には非分散型赤外ガス分析計が用いられる。建築物にお
ける衛生的環境の確保に関する法律では、多数の者が使用し、また利用する
建築物(特定建築物)で、中央管理方式の空気調和設備を設けている場合、
空気環境の調整を二酸化炭素濃度0.1%を管理基準として行うことを想定して
いる。この基準は、空気環境を環境衛生上良好な状態を確保する上での指標
として二酸化炭素を用いている。また、労働安全衛生法に基づく事務所衛生
基準規則(第7条)により作業環境測定等の実施などの規則がなされている
ほか、労働安全衛生規則(第583条)において坑内の炭酸ガス濃度の基準が規
定されている。
日本産業衛生学会(1983)、ACGIH(1983)による許容濃度はいずれも
5000ppm(9000mg/m3)とされている。
<村松による脚注>
酸素欠乏症
酸素は地球大気中(乾燥時)20.95%含まれる。
酸素欠乏による症状は下記の通り(Henderson,Haggardによる)
(酸素濃度、症状の順)
16〜12% 脈拍、呼吸数の増加、精神集中に努力がいる。細かい筋肉作業が
困難、頭痛、悪心、耳鳴
14〜9% 判断力低下、発揚状態、不安定な精神状態、刺傷などに無感覚、酩
酊状態、記憶障害、体温上昇、全身脱力、チアノーゼ
10〜6% 意識不明、中枢神経障害、痙攣、チェインストークス型呼吸、チア
ノーゼ
10〜6%の持続またはそれ以下 睡眠→呼吸緩徐→呼吸停止→6〜8分後心臓停
止
つまり、大気組成のままでCO2が単に増加した場合は、先にCO2中毒が起こり
ます。CO2が10%に至っても、O2濃度は18.86%ありますから。
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