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垣花眞人教授は、「水溶性チタン化合物の研究」により、平成14年度文部科学大臣賞を受賞し、第28回研究功績者として表彰されました。文部科学大臣賞研究功績者顕彰は、現在研究開発に従事し、その研究活動により、社会・経済に対して貢献する可能性の高い、優れた研究成果をあげた研究者に贈られているもので、創造性に優れた科学技術を振興することを目的としたものです。受賞対象研究は、水に安定に溶ける新しい水溶性チタン化合物を開発することにより、安全な水を溶媒とした環境調和型水溶液プロセスへの転換を実現したもので、市場の大きいチタン産業分野の発展に大きく貢献するものとして高く評価されました。受賞内容の詳細を以下に示しますが、概要は終わりに添付したイメージ図付きのメモをご覧下さい。 開発の背景:チタンは21世紀の元素とも言われますように、その工業的応用範囲は非常に広いです。しかしながら、実際にエレクトロニクスや触媒の原料として大量に消費されているチタン化合物は、水に馴染まないという理由から、有機溶媒など毒性溶液と一緒に使われることが多いのです。したがって、人体や環境に悪影響を与える揮発性有機化合物の量を少しでも減らすために、有機溶媒系から水系への転換を図る必要があり、工業的・環境化学的観点から水溶性チタン化合物の開発が産業界から強く望まれていました。 開発の内容:今回開発に成功し新規化合物として認定されたのはチタンペルオキソクエン酸アンモニウムです。この化合物は、金属チタンを過酸化水素水で処理したアンモニア水溶液中でクエン酸と反応させることによって純物質として得ることが出来ます。これにより、従来のチタン化合物では毒性の有機溶媒を使うのに対して、水溶性チタン化合物では溶媒として中性の無毒の水を用いることが出来るようになりました。このため、水溶性チタン化合物は消防法や危険物指定等の法的制限を受けることなく汎用の設備にて容易に扱うことが可能となり、チタン含有機能性酸化物の安全な原料として利用されるようになってきたのです。この化合物は、図のように、2個のチタン金属を2個のクエン酸が架橋して配位し、サイズの小さいペルオキソイオン(O22-)2個が空サイトを占め、さらにこのユニット2つが架橋し全体でチタン4量体となっています。チタンはクエン酸とペルオキソイオンにより完全に覆われており、これが水に対する安定性につながっています。詳しくは、東京化学同人社から刊行されている現代化学2000年3月号の25ページ以降をご覧下さい。 |
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今回の受賞は大学人として有り難いと言っても良いことが2つあります。第1に、本研究は無機化学の基礎研究であり、高等学校の化学実験室でも可能な内容だということです。もちろん、新物質として認定するためには精密な実験と分析とを要し、ある程度の研究費を必要としますが、本質的に基礎研究であることに変わりはないです。第2に、これは幸運としか言いようのないことですが、基礎研究でありながら工業化につながったことです。水溶性化合物はフルウチ化学株式会社から商品TAS-FINEとして一般に製造販売されていますし、またJFEソルデック株式会社はこの化合物を連続的に製造するベンチプラントを設計し大量生産に備えています。 本研究にご協力いただいたすべての方に感謝します。この研究の発展に向けて、更なるご協力をいただけますことをお願いします。(談 垣花眞人) |
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