強磁場印加による高温浮遊液滴のレーザー交流カロリメトリー法の開発


研究背景と目的


強い磁場の中で,半導体融液が<固体のように振る舞う>ことを利用し,これまでは不可能であった,半導体シリコン融液のような金属性高温融体の熱伝導率を測定する方法を世界にさきがけて開発した.シリコン融液を,強い静磁場中で交流対極コイルを利用して電磁浮遊させると,液体の流れは強く抑制され,熱的には固体と同じように振る舞う.この状態を利用して,交流カロリメトリー法で,浮遊したシリコン融液をレーザー光で周期加熱し,その時の温度応答を測定すると,磁場で流れが抑制されているので<固体の場合と同様に液体中の熱の流れを扱うことが可能>になる(下図参照).そのときの,加熱入力信号と温度応答の位相差から,<熱伝導率測定>が可能となるという,独特の方法である.通常,半導体などの高温融体の熱伝導率測定は,対流の影響を受けるため測定がきわめて困難である.従来は,微小重力環境を利用したり,レーザーフラッシュ法という方法を用いて瞬間的なレーザー照射により,対流が始まる前のごく短時間に測定を終了する方法しか提案されていない.本研究室で開発された新しい方法を用いると,磁場で対流が抑制された状態で金属性高温融液の熱伝導率が測定でき,また,周期加熱の温度振幅から定圧モル熱容量が,冷却曲線から半球全放射率が同時に測定できる.さらに,融液は浮遊しているので過冷却領域まで測定可能となり,高温融体の熱物性測定の教科書を書き換えるほどの新たな成果である.これにより,結晶成長やソーラーセル用シリコンの凝固過程のシミュレーションに必要な,熱物性値の測定が精度よく可能となることからプロセスの改良が行われ,結果として,品質の向上,省エネルギー,コスト削減に役立つ.また,この手法は他の金属にも適用できるため,超耐熱合金などの精密鋳造ならびに溶接などのシミュレーションに必要な熱物性値を測定することができる.本研究は,塚田隆夫教授(大阪府立大学)および淡路 智助教授(本学金属材料研究所強磁場超伝導材料研究センター)との共同研究である.