
m面InGaN/GaN多重量子井戸LEDの
断面走査型透過電子顕微鏡(STEM)像
[Okamoto et al., JJAP 45, L1197 (2006).] |
ローム株式会社が作製したm面InGaN/GaN多重量子井戸LED【Okamoto et al., JJAP 45, L1197 (2006).】の断面走査型透過電子顕微鏡(STEM)像です。
三菱化学より開発された低転位m面GaN基板を使用しています。
貫通転位、積層欠陥が観測されていません! |
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低転位m面In0.15Ga0.85N/GaN多重量子井戸LEDの
光起電力(PV)及び電流注入(EL)スペクトルの
注入電流量依存性。
[Appl. Phys. Lett. 91, 181903 (2007).] |
室温において注入電流を46μA~20mAと変化させたエレクトロルミネセンス(EL)スペクトルを左図に示します。
電流の増加に従う発光ピークの高エネルギーシフト量は高々12meVで、c面LEDの値(60meV)【JVST 16, 2204 (1998); pss(a) 183, 91 (2001).】よりも小さな値が得られました。
低転位基板を用いた結果、等価内部量子効率(300Kの波長積分EL強度を150Kのそれで割った値)は43%となりました。c面青色LEDの内部量子効率(ほぼ100%)に追いつくまで、もう一歩です ^^)v
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各電流注入時におけるLEDの顕微鏡写真
色が変化していません!! |

(a)150Kと(b)293KにおけるPLスペクトルのバイアス(VEX)依存性
(c)熱平衡状態 及び (d)VEX=+2.5Vにおいて
1次元Poisson方程式及び Schrödinger方程式
を解き計算したバンド図
[Appl. Phys. Lett. 91, 181903 (2007).] |
PLスペクトルのバイアス(VEX)依存性です{左図(a)と(b)}。
スペクトルには、MQWからの発光と、黄色発光体(YL)のピークが現れています。
これらのうち、YLは主にGaN基板からの発光なので、強度に変化がありません。一方、MQWからの発光は、VEX減少(接合電場Fjの増加)に伴い減少しています。いったい何が起こったのでしょうか??
1次元Poisson方程式及び Schrödinger方程式を解き、バンド計算を行いました{左図(c)と(d)}。
ご覧下さい、熱平衡状態においても既に正孔の波動関数が井戸から漏れ出てしまっています。波動関数の浸み出しは、発光効率低下を招きます。
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時間分解PL(TRPL)信号のVEX依存性
[Appl. Phys. Lett. 91, 181903 (2007).] |
再結合ダイナミクスを明らかにするため、 時間分解PL(TRPL)信号のVEX依存性を観察しました。
低温での減衰寿命は殆ど変わっていませんが、室温ではVEX減少に伴い急激に短くなっていることが分かります。
この違いには、何が影響しているのでしょうか??
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(a)PLピークエネルギーのVEX依存性。点線は計算値。
(b)規格化波長積分PL強度のVEX依存性。
150K、VEX=+2.5Vの値を1としている。
(c)有効PL寿命(τPL,eff)、有効輻射再結合寿命(τR,eff)、有効非輻射再結合寿命(τNR,eff)のVEX依存性。
[Appl. Phys. Lett. 91, 181903 (2007).] |
二準位系励起子再結合モデルを使って解析しました。
光励起により生成された励起子は輻射と非輻射再結合過程により減少し、レート方程式は次式で表されます
dn/dt = - n/τR,eff - n/τNR,eff
ここで、τR,effは有効輻射再結合寿命、τNR,effは有効非輻射再結合寿命です。そして、有効PL寿命(τPL,eff)と等価内部量子効率(ηeqint)は、以下のような関係式で表されます。
1/τPL,eff = 1/τR,eff + 1/τNR,eff
ηeqint = 1/(1+τR,eff/τNR,eff)
この二式を使うと、τR,effとτNR,effを導き出すことができるのです。
得られた結果を左図(c)に示します。
まず、有効輻射寿命に注目すると、VEXの減少(接合電場Fjの増加)に伴い増加しています。これは、電子-正孔対の波動関数が分離して、輻射再結合確率が減少したことを示唆しています。また、昇温に伴って有効輻射寿命が長くなっていますが、これは2次元空間への励起子の熱広がりによるものと考えられます。
一方、有効非輻射寿命に注目すると150K、293K共に、VEXの減少(接合電場Fjの増加)に伴い減少しています。これは、上記したように、正孔の波動関数が井戸から漏れ出る割合がVEXの減少と共に増加したことを反映していると考えられます。
ここで、非輻射再結合寿命が輻射再結合寿命を下回る(非輻射再結合過程が支配的となる)VEXは、150Kでは+0.5V付近であるのに対し、293Kでは+2V付近となっています。
室温でVEXの減少に伴う急激な減衰寿命の減少が観られた原因は、非輻射再結合寿命が支配的となっていたためだったんですね。^^)v
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