多元物質科学研究所
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テーマ

研究のコンセプト

低炭素、低環境負荷型社会の実現には、私たちの暮らしを支えるエネルギーの新しい製造方法や、限られたエネルギーや資源を有効に使う方法など、解決していかなければならない課題が残されています。人類がこれまでに成し遂げてきた幾つもの歴史的変革の多くは,新しい材料の発明により成し遂げられてきました。当研究室では,人類が今直面しているこれらの課題をブレークスルーする新しい材料を創りだし、クリーンエネルギーと省エネルギーを両輪とする21世紀型社会の構築に貢献することを目指しています。

小俣研究室の研究テーマはおおきくわけて3つあります。

 

1.次世代太陽電池材料の開発

1-1. SnS太陽電池

SnSはバンドギャップが1.1 eVで、安価で毒性のない元素からなるため、新しい太陽電池材料として期待されています。これまでのSnSを用いた太陽電池ではn型層にCdS等が用いられて来ましたが、その変換効率は高くても4%で、理論値(25%)には遠く及んでいません。本研究室では、高効率なSnS太陽電池を目指し、XPSによるバンドアラインメントの解明や、n型SnS薄膜の作製にとりくんでいます。

最近では、世界初のSnSホモ接合太陽電池世界初のn型SnS薄膜の作製に成功しました。

図1

SnSの結晶構造

最近の論文
n型SnS薄膜に関する論文:Phys. Rev. Mater., 5, 125405 (2021)
SnSホモ接合素子に関する論文: Solar RRL, 5, 2000708 (2021)
SnS/MoO3太陽電池に関する論文 :APL Mater., 11, 031116 (2023)
n型SnSに関する解説記事:J. Phys. Energy, 4, 042002 (2022).

1-2. 全酸化物薄膜太陽電池

現在主流の太陽電池はシリコン(Si)を使って作られていますが、シリコンは間接遷移型半導体であるために光を吸収能力が小さく、太陽光を全て吸収するためには厚いシリコンを用いなければなりません。このため太陽電池パネルを作るには、たくさんのシリコンを必要とし、重い、原料コストがかかり価格が高くなる、などの課題があります。これを解決する太陽電池として、カドミウムテルライド(CdTe)やCIGS(Cu(In,Ga)Se2)などの直接遷移型化合物半導体を使った薄膜太陽電池があり、すでに市販されています。しかし、これらのカルコゲナイドと呼ばれるテルル(Te)やセレン(Se)の化合物は、大気中では酸化してしまうので、その製造には多くの電力を必要とする真空プロセスが必要となります。薄膜太陽電池に適した酸化物の半導体があれば、

・酸素には有害性がない

・酸素は地球上に豊富にある元素の一つ

・酸化物は大気中や水中で安定なものが多い

という特長を活かし、安全でかつ低価格な薄膜太陽電池を提供することができます。

私たちの研究室では、この目的に合う酸化物半導体を設計・探索し、β-CuGaO2という新物質を見出しました。β-CuGaO2のバンドギャップは、Si、CdTe、CIGSなどと同様に太陽電池の変換効率が最も高くなる範囲にあり、光の吸収能力もCdTeやCIGSと同水準の薄膜太陽電池に適した物質です。現在は、β-CuGaO2の薄膜化、電子伝導性の制御、p-n接合などの実験とともに第一原理計算による基礎物性の解明の進め、全ての材料を安定な酸化物で作る“全酸化物薄膜太陽電池”や“全酸化物LED”の実現を目指して研究を進めています。

 

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2014年に太陽電池に適したバンドギャップを有する唯一の酸化物(β-CuGaO2)を発見しました。現在はその素子化などに取り組むとともに、引き続き新たな材料の探索をしています。

最近の論文
β-CuGaO2などの酸化物半導体に関する解説記事:Semicond. Sci. Technol. 32, 013007 (2017)
β-CuGaO2の薄膜化に関する論文:J. Asian Ceram. Soc., 10, 2, 520-529 (2022).

2.次世代燃料電池材料の開発

燃料電池は大規模発電用から家庭用,移動体用まで,様々な分野での実用化が期待されている発電装置で、既に市販もされています。その一つはポリマーを電解質とした100℃以下の低温で作動する固体高分子型燃料電池で、作動温度が低いため反応を促進する貴金属触媒を必要とします。もう一つはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を電解質とする固体酸化物型燃料電池で、酸化物であるYSZ中を酸化物イオン(O2-)が自由に動けるようになるには高温が必要であるため、通常800~1000℃で運転されます。そのため燃料電池システム全体を構成するには耐熱性の高い材料が必要となります。従って、これらいずれの燃料電池も価格が高くなり、各家庭に1台を実現するには価格の低減が必要となっています。

中温作動型燃料電池は250~500℃で作動する燃料電池で、貴金属触媒が不要で廉価な材料でシステムを構成できるため、低コストを実現できる次世代型の燃料電池として期待されています。現在でもこの温度域で作動する燃料電池がないのは、この温度域でプロトン(水素イオン;H+)あるいは酸化物イオンが自在に動き、電解質として使用可能なイオン伝導体がないためです。

私たちの研究室では、中温作動型燃料電池の電解質に適用可能なプロトン伝導性の固体電解質を開発しています。これまでに電荷担体であるプロトンをガラス中に10~20mol・L-1という高い濃度で注入する方法を開発し、この方法を用いて300℃前後の温度域では世界最高クラスのプロトン伝導性のガラス電解質をつくり出しています。現在は、ガラス電解質の更なる高性能化と、ガラス電解質に適した電極材料の開発を行い、中温作動型燃料電池システムの実現を目指して研究を進めています。

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Na+が含まれたガラスにH+を注入するという全く新しい手法で中温域(250~500℃)で使える電解質を作っています。この温度域での伝導度は世界トップレベルに達しています。

最近の論文
プロトン伝導性ガラス電解質に関する解説記事(日本語):セラミックス誌  2022年
Si系ガラス電解質に関する論文:ChemPhysChem, 23, e202100840 (2022)
GeO2含有ガラス電解質に関する論文:J. Mater. Chem. A. 9, 20595−20606 (2021)

3.新規材料の開発

高い性能を持つ材料を手に入れるため、
周期表の元素を自在にくみあわせた新しい物質や、それを可能とするプロセスを研究しています。
「現代の錬金術師」を目指しましょう!


 

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研究概要や研究室生活をまとめた小俣研のパンフレットを掲載しました。(2023/4/5更新)