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[論文] 298Kにおける塩酸溶媒中の鉄(III)クロロ錯体分布の決定

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図1 主成分分析と熱力学モデルのフィッティングにより
得られた鉄(III)クロロ錯体分布とモル吸光係数
 図2 本論文で提案した成分数決定の指針
(本論文とは別のデータ)

Cu(II)、Co(II)に続いて塩酸溶媒中Fe(III)クロロ錯体分布です。最終的な目標は金属高純度化の基礎的知見となる陰イオン交換反応解析です。例えば、Feを高純度化する際、周期表でFe周囲に存在する3d遷移金属元素の除去が困難です。除去し難い元素の挙動をしっかり把握することが、重要であると考えています。そこで、3d遷移金属クロロ錯体の分布を明らかにし、各々の陰イオン交換反応の詳細について明らかにすることが目標です。

さて、本論文では成分数の決定方法について新しい指針を提案しました。図1の吸収スペクトルの行列Aを特異値分解により、濃度成分Cとモル吸光係数成分Eを表現する二つの行列の積として表すことができます。数学的に分解された二つの行列の最初の数個の列ベクトルにより、元の行列Aを再現することが可能です。「重要な数個の列ベクトルが最初の幾つなのか」が重要で、この個数が成分数、すなわち溶媒中に存在する錯体種の数と同じです。残りの列ベクトルは、実験誤差を再現しているにすぎません。最初の重要な列ベクトルの要素は滑らかに変化するのに対し、実験誤差を再現する列ベクトルの変化はランダムです。そこに着目すると、図2で分かるように、第1から第4成分までは滑らかであるのに対し、第5成分の変化は滑らかさが失われており、この系での錯体種は4つであることが分かります。

この指針は、従来の指針に比べてより確実な成分数の決定の指針です。成分数の決定は、成分分析において最も重要な解析であり、成分数を間違えるとその後の解析も誤り、辻褄合わせの結論を導きかねません。今後の研究に大きく役立つものと考えています。

Uchikoshi, M.: Determination of the Distribution of Ferric Chloro Complexes in Hydrochloric Acid Solutions at 298 K, Bulletin of the Chemical Society of Japan, 92(12), pp. 1928-1934, Dec. 2019, DOI: 10.1246/bcsj.20190195

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