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4Vで動作する有機リチウムイオン電池を実証 ~金属資源を一切使用しない高エネルギー密度蓄電池へ~

発表のポイント

・リチウムイオン電池の次世代材料として注目される有機物正極材料の課題を検討。
・低分子有機化合物「クロコン酸」を正極材料に用いることで、現行リチウムイオン電池よりも高い4 Vでの高電圧動作を実証。
・金属資源を一切使用しない、安価でレアメタルフリーな高エネルギー密度蓄電池開発が期待。

概要

 現在、リチウムイオン電池にはコバルトをはじめとするレアメタルが使用されています。しかしコバルト資源は、2030年頃には逼迫すると予想されています。また産業競争力強化の観点からは、電池製品の低コスト・高安全・高エネルギー・高出力などの高性能化が求められています。
 カリフォルニア大学ロサンゼルス校博士課程 勝山湧斗さん、東北大学多元物質科学研究所 小林弘明助教、本間格教授らは、この課題解決のために、レアメタルを一切用いない有機レドックス分子のリチウムイオン電池正極材料応用を検討しました。有機物は炭素、酸素、窒素、水素など豊富な軽元素のみで構成され、高電位でのレドックス反応が利用できればレアメタルフリーで低価格かつ軽い高容量蓄電池が実現できるため次世代正極材料として注目されています。今回、低分子の有機化合物である「クロコン酸」が4 Vを超える高電圧領域で利用できることを見出し、有機リチウムイオン電池の高電圧作動を実証しました。現行の無機化合物電極材料よりも高い電圧での動作が可能であり、レアメタルフリーな高エネルギー密度蓄電池としての開発が期待されます。
 本研究成果は主にJSPS科研費 基盤研究A(21H04696)により得られ、2022年3月10日に「Advanced Science」誌にオンライン掲載されました。
プレスリリース本文(PDF)

研究の背景と経緯

 リチウムイオン電池はスマートフォンやノートパソコン、電気自動車などの電源として幅広く普及しており、近年はワイヤレスイヤホンなどの小型デバイスの電源にも使用されています。今後益々の需要増に伴い、リチウムイオン電池の低コスト化・高安全・高エネルギー・高出力など更なる高性能化が求められています。中でも大きな問題は、リチウムイオン電池部材に用いるレアメタルの資源的な制約であり、例えば正極材料に使用されるコバルト資源は2030年頃までに逼迫し、さらに2050年頃には枯渇すると言われています。これらレアメタルの資源的制約とサプライチェーンリスクを回避するため、金属資源を一切使用しないレアメタルフリー正極材料の開発が重要です。
 正極材料の候補材料として、炭素、窒素、酸素、水素などの軽い元素のみから成る有機化合物が近年注目されています。有機化合物は資源的制約がなく、多彩な材料設計が可能です。また、コバルトなどの金属元素からなる無機材料と比べて軽く、容量密度を大きくすることができます。しかし、これら有機材料の多くは動作電圧が低いという課題を有しています。現行リチウムイオン電池の動作電圧が3.7 V程度に対し、これまで報告されている有機物正極材料の動作電圧はほとんどが3 V以下です。電池の高電圧化は高エネルギー化に直結するため、有機化合物正極の実用化を目指す上では高い電圧で動作可能な有機化合物材料の開発が求められています。

研究の内容

 本研究では、高い容量を示す低分子有機物の中でも高い反応電位を示す材料を探索し、その中でクロコン酸に着目しました。クロコン酸は古くから知られている低分子有機化合物の一つであり、炭素同士が五角形の形で結合し、その炭素それぞれに酸素が結合した分子構造(図参照)をしており、一般的にレドックス可能な炭素-酸素結合を5つ有しています。またクロコン酸はその1分子当たり最大で4個の電子を貯蔵することが可能であり、この4電子レドックス反応を利用できれば理論容量は754 mAh/gと極めて大きく現行コバルト系のLiCoO2と比較して4倍以上となります。これまでクロコン酸を蓄電池正極に用いた研究例はありますが、5つある炭素-酸素結合のうち2つまでしか利用されておらず、またそのレドックス電位は2 V以下と低い動作電圧を示します。今回、第一原理計算を用いて残りの炭素-酸素結合のレドックス電位を調べた結果、別の2つの炭素-酸素結合で4 Vを超えるレドックス電位を示すことを見出しました(図参照)。このレドックス反応を利用することができれば、現行リチウムイオン電池に用いられる無機化合物材料や近年報告されている有機分子材料、有機ポリマー材料よりも高いエネルギー密度の蓄電池を作ることができます。実際にクロコン酸をリチウムイオン電池の正極に利用することで、4 Vでの放電が繰り返し進行することを明らかにしました。

今後の展望

 クロコン酸をはじめとする低分子有機化合物は化学修飾が容易で多彩な分子設計が可能です。現時点ではクロコン酸の持つ高い理論容量(754 mAh/g)を活かすことには成功しておらず、電池設計にも課題がありますが、有機材料ならではの分子設計により高容量と高電圧の両立、すなわち現行リチウムイオン電池を大きく超える高エネルギー化が期待できます。また、有機化合物正極は全固体電池やマグネシウム電池、ナトリウムイオン電池などリチウムイオン電池以外の次世代電池へ利用することも可能であり、再生資源を用いたレアメタルフリーで安価な次世代蓄電池として有機蓄電池の更なる可能性が期待されます。
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図 (上)第一原理計算により見出されたクロコン酸の多電子レドックス反応。
  (下)リチウムイオン電池正極材料としての位置付け。

 
論文情報:
“Are Redox-Active Organic Small Molecules Applicable for High-Voltage (>4 V) Lithium-ion Battery Cathodes?”
Yuto Katsuyama, Hiroaki Kobayashi, Kazuyuki Iwase, Yoshiyuki Gambe, Itaru Honma
Advanced Science
DOI:10.1002/advs.202200187

関連リンク:
東北大学
エネルギーデバイス化学研究分野

問い合わせ先

東北大学多元物質科学研究所 
エネルギーデバイス化学研究分野 
助教 小林 弘明 (こばやし ひろあき)
E-mail:h.kobayashi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

教授 本間 格 (ほんま いたる)
E-mail:itaru.homma.e8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)


東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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