6/25 第10回 触媒


  1. 講義で使用したスライド, pdf形式 774KB

1. 吸着について自由に述べよ。なお、世間一般で「吸着」とだけ言うときには、物理吸着を指すことが多い。
吸着は、物理吸着や化学吸着に分かれる。が、はっきりと分かれているわけではなく、丁度、化学結合に共有結合とイオン結合があって、金属結合以外のほとんどの化学結合はどちらの性質も合わせ持っていて、共有結合性が強いか、イオン結合性が強いかで、何とか分けているものと、同じである。
つまり、窒素や酸素は通常、机、鉛筆、顔などに物理吸着しているが、二酸化炭素が物理吸着かどうかは疑われるところである。
ともあれ、吸着には、van der Waals力(分子間力)による、物理吸着と、化学結合による化学吸着があり、後者の吸着熱は化学結合のそれに等しい。また、後者の吸着では単分子層で終了するが、前者はマルチレイヤーとなる。前者の性質を応用して、液体窒素温度で窒素吸着量を測定し、その結果から、物質の比表面積を調べる、BET法がある。
後者の化学吸着は、一般に不可逆吸着であり、元に戻らないことが多い。
化学吸着は吸着分子が結合解離する、解離吸着と、解離しない、非解離吸着に分かれる。
なお、講義では、物理吸着をはえがとまることにたとえた。つまり、物理吸着でははえ、人間自身何も変化しない。一方、化学吸着は、蚊が止まって血を吸う状態で説明した。つまり、両者に明確な変化が現れるのである。
こうして、2種類の吸着があるが、最初は必ず物理吸着からはじまる。 蚊も血を吸う前に、まず、止まらないといけないわけである。

2. 身の回りの触媒あるいは触媒を使って得られたものを3例ほど挙げよ。
身近にある製品で、触媒が使われている、あるいは、含まれている、あるいは、触媒を使った結果、できたものって、何があるだろうか
1.自動車触媒: ゼオライトやアルミナのような酸化物担体の上に、Pt白金が担持されている。児童hさ排気ガス中のNOx等を除去する。
2.ガソリンや経由など: 石油やナフサから蒸留された留分の付加価値を高めるために、接触改質している。この触媒は、別名fcc触媒と呼ばれており、石油化学の重要な触媒である。
3.メタノール合成: Cu-ZnO/アルミナ触媒であり、天然ガスから接触改質によって得た、合成ガスCO+H2からメタノールを合成する。得られたメタノールは酸化され、ホルムアルデヒドになり、これは、高分子化合物を合成する際の、もう一つの原料(共重合)である。
4.酢酸合成: 工業用酢酸は、いわゆる人絹の原料である。この酢酸は、上記の合成ガスとメタノールから、液相均一系で合成される。つまり、触媒も液体の、Rhロジウム系触媒を用いる。
5.オキシドール: 消毒用の過酸化水素の希薄溶液である。これを肌につけると盛んに酸素の泡を出すが、この酸素によって、消毒される。この酸素発生は、二酸化マンガンによる、過酸化水素水の分解反応と同様であり、肌によって分解を受けたわけであり、肌が触媒といえる。
6.生体触媒: 酒の生成の際の、麹菌の出す酵素や、酵母がある。さらには、唾液中の酵素など、ありとあらゆる酵素が小さな触媒である。

触媒というと、世の中触媒だらけのような感があるが、そうでもない。
厳密に言えば、触媒は、どんなに変化してもいいが、反応後は絶対に元に戻らねばならない。元というのは、その反応が定常状態で進行する以前の状態のことである。
たとえば、お燗機能付きの酒のお燗機能は、金属鉄の酸化反応のときの反応熱を利用しているが、この場合の鉄は触媒ではない。鉄が酸化され、そこで反応が終わってしまうからである。

さて、触媒とはなんだろうか。
特定の反応の反応速度を変化させる機能性材料であるが、本質は何だろうか。
反応には活性化エネルギーがあるが、活性化エネルギーを触媒が変えることはない。活性化エネルギーが変わったということは、反応のパスが変わったのである。

3. 吸着から表面反応へ。どのようなメカニズムで触媒反応は起こっているのか、述べよ。
吸着と触媒は密接に関係しているが、吸着したからと言って、触媒反応が始まるわけではない。前者には、冷蔵庫の消臭剤などがあり、後者には、自動車触媒などがある。ところが、後者は、NOx等の触媒表面への吸着から始まる。つまり、触媒は吸着を包含するが、吸着されるもの全てが触媒というわけではない。
たとえば、乾燥剤を考えてみよう。たとえば、シリカゲル。吸湿性が強いが、これは空気中の水分がシリカゲル表面に吸着しているものと考えられる。コーヒーかすを乾かして冷蔵庫に入れておくといいという。これも吸着剤である。

吸着はその吸着力から物理吸着と化学吸着に分類できる。前者はvan der Waals力で、後者は化学結合力で支配される。触媒反応では後者の化学吸着がきっかけとなる。化学吸着は触媒表面との化学結合を前提とするので、その吸着熱は化学反応熱と同じ程度である。物理吸着が可逆吸着であるのとは対照的に気体分子が吸着後すみやかに化学変化を起こすことが多く、不可逆な場合がある。また、化学吸着は一種の化学反応であり、活性化エネルギーを必要とすることが多く、平衡吸着までの時間は物理吸着に比較してきわめて長い。

平衡論は、いわば、桃源郷ユートピアの世界の話である。この世界と今とのエネルギー差が、まさしく、ギブスの自由エネルギー変化なのである。平衡論は、エネルギー的に最も安定なところは、どこか、「ある条件下」で、規定しようとする学問である。
触媒は、速度論の学問である。いかなる触媒を使っても、平衡論の範疇にある。逆に言えば、平衡的に生成しないものは、どんな触媒でも得られないのである。たとえば、水と炭酸ガスから、石油を作ろうと言っても、平衡が著しく、水と炭酸ガスに寄っているから、どんな触媒を用いてもできないわけである。


詳しくは講義資料を参考にすること。