6/11 第9回 吸着現象


  1. 講義で使用したスライド, pdf形式 1,108KB

1. ナノ粒子とは何か、知るところを延べよ。
10億分の1mを1nm(ナノメートル)という。このオーダーの超微粒子をナノ粒子とよぶ。超微粒子との違いはサイズだけではなく、ナノメートルオーダーでサイズが揃っていることを要求される。
詳しくは、第8回の講義スライドを参照すること

2. 触媒材料としてはナノ粒子が良い。なぜか述べよ。
  1. 比表面積がかせげる
    触媒活性サイトは表面が多くなればなるほど多くなるので、比表面積が多くなるほど、単位触媒重量あたりの活性があがる。触媒は材料表面だけを使用するためである。
  2. ナノ領域のサイズになると、エッジやコーナー部の原子、つまり不飽和な結合を有するサイトが多くなる
    講義スライドで示したように、サイズが小さくなると表面原子とバルク原子の比が大きくなり、つまり、表面に露出している原子が多くなる。そうなるとこれらの原子は表面エネルギーが高く、反応物とより強い化学吸着を起こす可能性が高い。触媒反応は化学吸着から始まるので、触媒全体の活性が高くなる可能性がある。
    ただし、かえって低くなる場合もある。(構造敏感型反応と呼ばれる)


3. 身の回りの吸着物質を書き、どんな働きをしているか述べよ。
吸着と触媒は密接に関係しているが、吸着したからと言って、触媒反応が始まるわけではない。前者には、冷蔵庫の消臭剤などがあり、後者には、自動車触媒などがある。ところが、後者は、NOx等の触媒表面への吸着から始まる。つまり、触媒は吸着を包含するが、吸着されるもの全てが触媒というわけではない。
たとえば、乾燥剤を考えてみよう。たとえば、シリカゲル。吸湿性が強いが、これは空気中の水分がシリカゲル表面に吸着しているものと考えられる。コーヒーかすを乾かして冷蔵庫に入れておくといいという。これも吸着剤である。

吸着はその吸着力から物理吸着と化学吸着に分類できる。前者はvan der Waals力で、後者は化学結合力で支配される。触媒反応では後者の化学吸着がきっかけとなる。化学吸着は触媒表面との化学結合を前提とするので、その吸着熱は化学反応熱と同じ程度である。物理吸着が可逆吸着であるのとは対照的に気体分子が吸着後すみやかに化学変化を起こすことが多く、不可逆な場合がある。また、化学吸着は一種の化学反応であり、活性化エネルギーを必要とすることが多く、平衡吸着までの時間は物理吸着に比較してきわめて長い。

平衡論は、いわば、桃源郷ユートピアの世界の話である。この世界と今とのエネルギー差が、まさしく、ギブスの自由エネルギー変化なのである。平衡論は、エネルギー的に最も安定なところは、どこか、「ある条件下」で、規定しようとする学問である。
触媒は、速度論の学問である。いかなる触媒を使っても、平衡論の範疇にある。逆に言えば、平衡的に生成しないものは、どんな触媒でも得られないのである。たとえば、水と炭酸ガスから、石油を作ろうと言っても、平衡が著しく、水と炭酸ガスに寄っているから、どんな触媒を用いてもできないわけである。

身近にある製品で、触媒が使われている、あるいは、含まれている、あるいは、触媒を使った結果、できたものって、何があるだろうか
1.自動車触媒: ゼオライトやアルミナのような酸化物担体の上に、Pt白金が担持されている。自動車排気ガス中のNOx等を除去する。
2.ガソリンや経由など: 石油やナフサから蒸留された留分の付加価値を高めるために、接触改質している。この触媒は、別名fcc触媒と呼ばれており、石油化学の重要な触媒である。
3.メタノール合成: Cu-ZnO/アルミナ触媒であり、天然ガスから接触改質によって得た、合成ガスCO+H2からメタノールを合成する。得られたメタノールは酸化され、ホルムアルデヒドになり、これは、高分子化合物を合成する際の、もう一つの原料(共重合)である。
4.酢酸合成: 工業用酢酸は、いわゆる人絹の原料である。この酢酸は、上記の合成ガスとメタノールから、液相均一系で合成される。つまり、触媒も液体の、Rhロジウム系触媒を用いる。
5.オキシドール: 消毒用の過酸化水素の希薄溶液である。これを肌につけると盛んに酸素の泡を出すが、この酸素によって、消毒される。この酸素発生は、二酸化マンガンによる、過酸化水素水の分解反応と同様であり、肌によって分解を受けたわけであり、肌が触媒といえる。
6.生体触媒: 酒の生成の際の、麹菌の出す酵素や、酵母がある。さらには、唾液中の酵素など、ありとあらゆる酵素が小さな触媒である。

詳しくは講義資料を参考にすること。