4/16 第2回 身の回りの界面化学

1. 緑茶と牛乳などで共通の物理化学現象はなにか。できれば、その現象を化学的に説明せよ。たとえば、緑茶がいつまでも(くさらない限り)いつまでも緑色。牛乳も腐らない限り、いつまでも白色。似たようなものには塗料、墨などなど。
前回の講義で説明したように、コロイド分散系である、というのが回答である。

微粒子が安定分散している。
○ ペーパ−クロマト的効果がある
○ チンダル現象が見られる
○ 塩か何かを入れると沈殿する

このように分散が安定しているのはなぜだろうか。
たとえば、牛乳の成分というと、水(=溶媒)、乳脂肪、タンパク質だ。これらが密接に関係して、あの白さを出している。一方、墨は、水(=溶媒)、炭、膠(にかわ)だ。同じような役目であることがわかる。
2. コロイド分散系と分子分散系。違いは何か?
大要、粒子の大きさで分かれていると言ってよい。
分子分散系は、概ね5nm以下であり、コロイド分散系はそれ以上。
だが、5nm以下の粒子もあれば、5nm以上の分子もあるので、両者を区別するのは容易ではない。

化学結合は、共有結合とイオン結合に代表されるが、それとは異なる、分子間力や水素結合などによって支配されているのが、コロイドである。バターなどがコロイドの一種といってもなかなか理解できないが、分散媒(コロイド粒子以外の部分、たとえば、たばこの煙は、分散媒が空気であり、コロイドは煙自身)中に分子間力などの力で支配されてコロイドが分散している、と考えれば理解できるだろう。
一方、化学結合は
・ 共有結合:原子核が結合にあずかっているもの。電子的な作用はない
グルコースなどのように水に溶かしても分子状で解けているものが代表例となろうが、グルコースにしても完全に分子状というわけでもない、一部分は解離(プロトン=水素イオンが解けでている)している。
・ イオン結合:電子的な授受によって保っている結合
たとえば、NaCl(食塩)に代表されるように、一分子を得ることはできないような、イオンの固まりをイオン結合と呼んでいる。水に溶かすと、ナトリウムイオンと塩素イオンに解離するが、これは解離平衡に依存している。つまり、食塩といえども、イオン結合だけというわけではなく、一部分は解離しないで分子状になっているものもある。
このように、共有結合、イオン結合といっても完全なものはなく、多くの物質はこれらの中間的な結合である。
共有結合性が強い分子は、グルコースのようにC6H12O6と分子式でかけるのに対し、イオン結合性の物質は、分子式で書くことはできず、NaClにように組成を代表して表すしかない(組成式)。
ただ、Fe,Coはどうするんだろう。ってことで、金属結合がある。これは共有結合の近いが、自由電子が飛び回るという特殊な性質を有しており、この場合は、一分子を記述することはできない。

では、コロイドは何だろう。
これは、多くの分子の集合体とか固体が浮遊しているもので、コロイドが凝集したり分散するときにはこれら、共有結合、イオン結合、金属結合は関係なく、ほとんど分子間力などの弱い力によって左右される。今後、この作用について理解を深めよう。

(参考)
古来のコロイドというと、水に分散している泥のようなものを指していた。が、科学の進歩により、実際に見るということが原子のレベルまで可能になった現在、コロイドと分子を分ける最終線は何か、が問題となっている。コーヒーなどは目でみたところは溶液なのだ。でも、実際にもっと拡大してみると、コーヒーの味や色を構成する多くのコロイド粒子で構成されている。
たとえば、上記のグルコースはコロイドではない。しかし、牛乳の蛋白はコロイドといわれる。突き詰めれば、差異があるのは、大きさだけになってしまう。それではどの大きさからコロイドというかという問題が残る。そこで、最近のコロイド化学では、そのコロイド粒子の分散凝集挙動が、いわゆるコロイド化学の理論で適用できるものを指すことが多くなった。言い換えれば、分散媒の存在下、分子間力などの力に支配されている系をコロイドということになってきたのである。ただし、コロイドの理論は分子やイオンにも通じるものがあり、分子分散系とコロイド分散系はその境界線が一層不明確になっているのも確かである。
3. グルコースと食塩。違いは何か?
分子分散系とコロイド分散系の話から、類推できる。
グルコースはブドウ糖のことで、糖類であり、共有結合性分子と分類され、食塩はNaClであり、イオン結合性分子と分類されている。
後者は溶解すると、Na+(ナトリウムイオン)とCl-(塩化物イオン)に解離する。
前者は溶解しても、分子状のままである。
これらはいずれも溶液=分子分散系と呼ばれているが、本当にそうだろうか。

グルコースは脱水縮合して、ショ糖、さらに脱水縮合して、でんぷんとなる。でんぷんの代表である、コーンスターチみたいなものを溶かした液は溶液といえるかどうか。答えはnoであろう。
では、グルコースとでんぷんの違いは何か。分子量の大きい高分子化合物が後者であるだけであって、構成元素に違いはない。
つまり、グルコース溶液と、でんぷん溶液を区別するのは、無意味ではないだろうか。
それが、コロイド分散系と分子分散系の違いとなっているのは、物理化学的にはナンセンスである。