平成11年6月15日

小テスト&基本調査

裏面を使用してよい。

専攻[           ]番号[         ] 氏名[            ]

本講義の初回に説明したように、全項目に3行以上記入すること。未記入の項目があれば、欠席扱い

 

1.微粒子の分散・凝集について、2つの力との関係から、説明せよ。

 

凝集の起動力はLondon-van der Waals力

 これは、物質固有の定数=Hamaker定数によって規定される、距離だけの関数

分散の起動力は静電的反発力

 これは、電解質濃度(イオン強度)や、価数、温度などによって変化する、距離の関数

 

従って、懸濁液の雰囲気によって左右されるのは、静電的反発力。イオンの価数と温度一手ならば、次のような図が描け、イオン強度増加に従い、反発力が弱まり、凝集しやすくなる。

 

 

 

 

 

2.塩析とは何か。物理化学的に考察せよ。

 

(以前説明したので略)

 

簡単にいえば、電解質濃度(イオン強度)の増加に伴い、凝集することを離礁した、コロイド粒子の凝集沈殿化。

 

 

3.牛乳に多量の塩を加えても、塩析現象は起こらない。なぜだろうか。

 

牛乳には

水分 87~89%、脂肪3.0~3.5%、タンパク質3.0~3.5%、乳糖4.0~4.5%、灰分0.7%

が一般的に含まれているという。

牛乳が白いのは、水に脂肪が分散しているためだが、この脂肪はタンパク質(カゼインやグロブリンなど)で覆われて、保護されているために、凝集することなく安定に分散している。

これを、保護コロイドといって、牛乳以外にも、写真の乳剤などで応用されている。

この保護コロイド作用のために、塩析させようとしても、タンパク質の皮膜が邪魔になって凝集しないわけである。

 

つまり、粒子の分散、凝集を静電的反発力と分子間力(London-van der Waals力)だけで考えると、実際の系で、おかしなこととなってしまうわけである。

 

<講義の内容>

粒子の分散、凝集を今一度、復習した。

急速凝集の速度は、Schulze-Hardyの急速凝集理論で説明できる。これは、塩析の効果をイオンの価数で整理したもので、同じ電解質濃度でも、イオンの価数が大きいと圧倒的に凝集速度が速くなる。この速度は、イオンの価数の6乗に比例する。

 

<豆腐>

豆腐は豆乳のタンパク質の一部を変質させ、かつ、凝集させたものであり、プリンやゼリー、ヨーグルトとともにコロイドのひとつである。

この豆腐の合成方法について考えよう。

 

大豆の粉砕後、懸濁液を熱処理し、濾過して、豆乳を作る。

この段階で、タンパク質が変性して、タンパク質表面が活性になる。このとき、界面活性剤のタンパク質によって、泡が多くでる現象がある。

ここに、凝集剤として、にがりを加える。以前は、海水から、NaClを除去して作っていたが、最近は海が汚れて、かなり精製した、塩化マグネシウムを使っているという。

NaClにも塩析効果はあるが、2価のマグネシウムの方がより、凝集剤としては優秀であり、上記の急速凝集理論により理解できるだろう。

凝集した、大豆蛋白は水を取り込みながら、セット(ゼリーのように固まること)する。この時、多くの上澄みができる。

以上は、天然の豆腐の作り方であるが、最近の豆腐はちょっと違う。

まず、大豆の残りかすからも大豆蛋白が抽出できるのでそれを使う。熱処理とともにでる泡が静まるのを待っていると効率が悪いので、消泡剤という界面活性剤を使う。グリセリン脂肪酸エステルがそれである。こいつは水で洗ったあとも残存する。

また、出発ができのわるい、かすだったりした場合や、より効率をあげるために、タンパク質の変質を促す、グルコノデラクトンを添加する。こいつは、豆腐となってセットしたあと、多くの水を取り込むために、豆腐の重量あたりの生産性は向上する。

さらに、最後に凝集剤として、硫酸カルシウムや硫酸マグネシウムなんてのを使う。硫酸イオンは塩化物イオンと違って、2価なので、より凝集効果が高いわけである。

こうして我々は、添加物だらけでしかも、水っぽい豆腐を食べさせられているのだ。

 

関連サイト

http://www.sasara.com/sansai.jp/tofustory.html

 

なお、 村田容常(お茶の水女子大)「豆腐作りの化学」化学と教育,43,100(1995)によると、

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 大豆タンパク質は2S、7S、11S、15S(数字の大きい方が分子量大)の各グロブリンに分類され、11Sが40%、7Sが30%を占めている。ゲル形成には、大豆タンパク質の加熱変成が重要で、生の大豆タンパクはゲル化しない。加熱すると7Sタンパク質がすみやかに変性され、11Sタンパク質も100℃で完全に変性する。11Sタンパク質が完全変性すると強いゲル形成能を現し、疎水領域が増加する。(山本注:つまり、11Sタンパク質は強い親水性タンパク質らしい。)ここへニガリなどの凝固剤を加えると、変性したサブユニット(ポリペプチドの鎖が球状に固まったもの)がイオン結合、疎水結合(疎水性部分を持った物質が集合)などにより会合してゲル化するものと考えられる。また、ゲル形成には−SH基も重要な要素である。加熱中に−SH基どうしが−S−S−結合を作り、3次元網目構造を作ると考えられる。

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という説もある。凝集が先か、変性が先かは議論の分かれるところだが、温泉豆腐のように、アルカリ性にすると再分散するのを説明するには、分散凝集の理論で説明したいところ。温泉豆腐としては、九州佐賀の嬉野豆腐が有名。