温泉の話 (界面電気化学 外論)

1.温泉法

  (昭二三・七・一〇 法律一二五) 平 三 法 七九

第一章 総則

第一条【目的】この法律は、温泉を保護しその利用の適正を図り、公共の福祉の増進に寄与することをもつて目的とする。

第二条【温泉、温泉源の意義】1 この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。

2 この法律で「温泉源」とは、未だ採取されない温泉をいう。

第二章 温泉の保護 第三章 温泉の利用 第四章 諮問及び聴聞 第五章 罰則

 別表

 一 温度(温泉源から採取されるときの温度とする。) 摂氏25℃以上

 二 物質(下に掲げるもののうち、いづれか一)

   物質名 含有量(1 kg中) <>内は 水1 kg = 1 lとしたときのmmol dm-3

  溶存物質(ガス性のものを除く。) 総量 1000 mg以上

  遊離炭酸(CO2) 250 mg <5.68>以上

  リチウムイオン(Li+) 1 mg <0.14>以上

  ストロンチウムイオン(Sr2+) 10 mg <0.11>以上

  バリウムイオン(Ba2+) 5 mg <0.036>以上

  フエロ又はフエリイオン(Fe2+,Fe3+) 10 mg <0.18>以上

  第一マンガンイオン(Mn2+) 10 mg <0.18>以上

  水素イオン(H+) 1 mg <0.99>以上

  臭素イオン(Br-) 5 mg <0.063>以上

  沃素イオン(I-) 1 mg <0.0079>以上

  ふつ素イオン(F-) 2 mg <0.11>以上

  ヒドロひ酸イオン(HAsO42-) 1.3 mg以上

  総硫黄(S)〔HS-+S2O32-+H2Sに対応するもの〕 1 mg <0.031>以上

  メタほう酸(HBO2) 5 mg <0.11>以上

  メタけい酸(H2SiO3) 50 mg <0.64>以上

  重炭酸そうだ(NaHCO3) 340 mg <4.0>以上

  ラドン(Rn) 20 ナノキユリー単位以上

  ラヂウム塩(Raとして) 10 ng(ナノグラム)以上

2. 温泉の正しい入り方

●かかり湯は、足など心臓に遠いところからはじめ、だんだん上の方にたっぷりと湯をかけよう。

 頭からかぶり湯をすると湯あたりが防げ、気分もリラックス!

●熱いお湯のでる湯口に遠いところから入ろう。

●まずお腹まで、温度や水圧に体をならしながら胸まで入る。

●ぬるめの湯に30分ほどつかると、温泉の成分を吸収できる!

●湯治の1日の入浴回数は、1〜2日は1回、2〜3日は2回、その後も3回までが適当。

●食事の直前・直後の入浴は×!酔っぱらっての入浴は危険!

●温泉は成分をそのまま体につけてでる方がGood!

3. いい温泉とは (次の条件が満足されていること)

1.湯量が豊富で、湯が大量に掛け流されていること。

2.湯舟が十分に深く、湯量を実感出来ること。

3.湯が適温であり、湯舟が不潔で無いこと。

4. 飲泉のすすめ

 温泉の飲泉所があったら、是非とも飲泉した方がいい。飲泉によって温泉の成分を直接体内に吸収することで、浴用以上に効能を早急に期待出来る。

飲泉所または飲用可能と明記してある所で飲むこと

飲泉の前後には食事や喫茶を避けること

飲用量が指定されている場合は従うこと

湯の華等の浮遊物が無いか確認し、浮遊物は極力飲まないこと

強酸性泉を飲泉する場合は薄めるか、直後に口(特に歯)をゆすぐこと

持ち帰った温泉は変質の恐れがあるので飲まないこと

卵スープのような味の温泉や柑橘系ジュースのような味の温泉、ラムネのような味の温泉がある。後者は、実際に昔ラムネ工場があったという炭酸温泉に該当する。

5. 温泉分析表の確認

源泉名 固有の源泉か、混合泉か名前から分かる

泉温 沸かし湯か、冷やして(薄める場合あり)いるのか確認できる

湧出量 大旅館で200l/分、中旅館で60l/分必要

知覚的試験 色、味、匂いを確認し実際の湯と比較しよう

pH 酸性なのかアルカリ性なのか

分量と組成 イオンの種類と量を確認

溶存物質 1g/1kg未満の場合は、25度以上か指定成分が含まれるはず

泉質 何泉か、また何張泉か確認

浴用の適応症 特に泉質別適応症に注目

飲用の適応症 これが書いてあれば飲める

(外論の外論) http://www.onsen.or.jp/kagaku/index.html

温泉の化学 1 「日本の温泉」

温泉と一口に言ってもいろいろありますが、世界にも温泉は多く、たとえば、アメリカには1,003、アイスランド516,イタリア149,フランス124にのぼる、温泉あるいは鉱泉地があるということです。日本の場合、地質調査所の「日本の温泉鉱泉」によれば、2,237箇所(温泉鉱泉地数、1974年)あり、90℃以上の温泉は110箇所に及ぶという、一大温泉地帯だといえます。ただし、多量の塩分を有する鉱水は地下深く(たとえば、1km以上)掘れば、日本中至るところに見つけることができ、あるいは、断層に沿って湧出することが多いようです。

岡山大学温泉研究所の酒井先生によると、日本の温泉は、(1)火山性温泉 (2)非火山性温泉 に分かれ、さらに後者は (2A)有馬型温泉 (2B)グリーン・タフ型温泉 (2C)海岸温泉 に分かれるそうです。

温泉の化学 2 「有馬型温泉」

 岡山大学温泉研究所の酒井先生によると、日本の温泉の中で最も特殊なのが、この有馬型温泉だそうです。有馬温泉の温泉水は2種類に分かれます。1つは、温泉街の南端の地獄谷断層に沿って湧出する、冷炭酸泉であって、これは、地下水そのものが二酸化炭素(二酸化炭素の起源は、岩石であろう)を溶かしたものにすぎず、ここで言う「有馬型温泉」ではないそうです。もう一つは、天満宮境内に昭和

24年掘削され、200mの地下から湧出する天神の湯です。この天神の湯(98℃)は、昭和25年の調査では、温泉水1L中に43,665 mgの塩素イオンがあり、昭和48年の調査でも、38,695 mg溶けています。海水の塩素イオン濃度は、19,000 mg程度であるので、非常に高濃度であることが分かります。この付近に第四紀の火山はなく、古第三紀の火成岩(花崗閃緑岩−流紋岩質火山岩からなる六甲断層帯にある)が熱源だろうと推測されます。断層に沿って、宝塚、生瀬には炭酸に富む高塩泉が湧出し、有馬の西の有野町五社にも同様な鉱泉があって、天神の湯を含むこれらの化学組成は非常に類似しているそうで、これらの水の水素Hと酸素Oの同位体組成を分析した結果、同じ起源であり、しかもそれは、有馬の深部塩水であろうと推測されています。この同位体含有量は、高温火山噴気中の同位体含有量と同等で、火山のないところで、なぜ、このような塩水があるのか、という謎が謎を呼んでいるようです。(地球化学のロマンでしょう) 同様な鉱泉は河内長野市の石仏鉱泉にもあり、地表水とは、明らかに起源の異なる水が日本各地で見つかっていますが、その生成メカニズム(どうやってこういう深部塩水ができるのか)も含めて、未だ、霧の中のようです。

温泉の化学 3 「グリーン・タフ型温泉」1

 グリーン・タフとは、新第三紀中新世初期(2,400万年前)から始まった地向斜運動により、沈滞地域全体にわたって海底火山運動が行われて、厚い海底火山噴出物が泥や砂と共に堆積したものが埋設変質により形成した、緑色の粘土鉱物のことで、緑色凝灰岩です。中新世にはこの海底堆積物に温泉が湧出し始めましたが、温泉には銅、亜鉛、金、銀などの重金属鉱物に富み、それが硫化物鉱床を形成し、東北の黒鉱が代表的なものです。この鉱床は山陰地方の一部にも見られ、黒鉱鉱床の特徴は、硫化物だけではなく、その下部かあるいは交互して、石膏(硫酸カルシウム=CaSO4)が伴うことです。

この硫酸カルシウムは、海水が100℃以上に加熱された結果結晶化し、沈殿してできたものや、熱い火山物質中のカルシウムが海水中のマグネシウムなどと交換して生成したもののようです。マグネシウムは火山物質中に取り込まれ、マグネシウムシリケート(Mgケイ酸塩)となります。こうして海水中の全硫酸イオンは石膏として沈殿し、グリーン・タフ中には、こうした石膏や、ときには海水そのものが取り込まれています。グリーン・タフが陸地化し、かつ、廻りに地熱の高い部分があ

ると、循環水(雨水など)が温められ、かつ、石膏などが溶けるか微粉末が分散して、グリーン・タフ型の温泉になる、とい

うわけです。この温泉の代表が、大鰐温泉、瀬波温泉、鳥取温泉です。つまり、水はその地域の現在の降水そのものですが、溶存物質の硫酸イオンは2000万年前にグリーン・タフ中に取り込まれた太古の海水のものなのだそうです。これもまた、ロマンを感じませんか?

温泉の化学 4 「グリーン・タフ型温泉」2

 引き続き、グリーン・タフ型温泉の話です。硫酸イオンが存在し、それが太古の海水→石膏由来のものというのが特徴という話をしましたが、塩素イオン濃度を見ると、海水の1/10程度のものが多いようです。結局、グリーン・タフ型温泉中の硫酸イオンは火山活動によるものでもなければ現在の海水によるものでもなく、2000万年前にグリーン・タフ中に取り込まれた硫酸イオンが溶けだしたものであって、大鰐温泉を例にとると、2つの水系があって1つは塩素イオンが多くもうひとつに硫酸イオンがかなり混入していて、それらが混ざり合って温泉水を形成しているという報告があります。青函トンネルの坑内水もグリーン・タフ型温泉水にその組成が類似しているとのことです。さて、森岳温泉もグリーン・タフ中から湧出する温泉ですが、硫酸イオンが少ないことが特徴的です。これはなぜか。硫酸還元バクテリアというバクテリアの働きで硫酸イオンが還元されて硫酸イオンが食べられちゃったということです。バクテリアは有機物が少ないと繁殖できないのですが、この地方に天然ガスが得られることから分かるように、この地方のグリーン・タフに沿って有機物が存在し、それがバクテリアの繁殖をもたらしたと考えられます。群馬の磯部鉱泉はグリーン・タフ中から湧出する温泉であるにも関わらず、Na-Ca-Cl型の温泉になっているのはバクテリアの食いつぶしのためだと言われています。なお、磯部鉱泉は循環水と化石海水との混合泉だそうです。この近くにある、八塩鉱泉は、グリーン・タフ中からその上の岩石層、結晶片岩中を通って湧出したために、片岩中に有機物が少ないため、バクテリアの繁殖がうまくいかず、硫酸イオンが食い尽くされなくて、残っています。

温泉の組成に微生物が関与している、っていうのも、面白い話です。

(引き続き、執筆中)

 

 

6. 随想 「みちのくの温泉」

・鳴子

陸羽東線、改名前の駅名は「鳴子(なるご)」。温泉は、「なるこおんせん」。鳴子、のいわれは2つ。

平安初期、潟山(温泉街の裏山)が17日間、鳴動して湧出した郷(鳴郷)。(実際、837年の噴火によってできた、という話がある)あるいは、義経が抱えていた赤ん坊・亀若がこの地で産湯と安らぎを得て、初めて泣いたこと(啼子)。9種(といわれるが、どう勘定するのかしらない)の異なった泉質の温泉が湧出する鳴子温泉は、その豊富な湯量で、古くから温泉街をつくってきた。全部の温泉に入るためには、いろんな旅館に泊まらねばならないが。単純泉、硫黄泉、重曹泉、芒硝泉、アルカリ泉、硫化水素泉、食塩泉、など。

宿によっては、4種の温泉を楽しむことができる。駅に近くなると、硫化水素泉が多くなり、逆に駅から山沿いになると、アルカリ泉が湧出する。

「ゆさや」のアルカリ泉は、うなぎ湯と呼ばれ、肌によくなじむ。古くから、鳴子の湯守をとめる老舗である。もっとも古い湯がここにある(硫黄泉)。

「姥乃湯」は4種類の温泉。露天もある昔ながらの宿。「亀屋」のお湯は鉄含有。東鳴子に近い方へ行くと、芒硝泉。「鳴子ビューホテル」など。

「東川原湯」は、芒硝泉に硫黄泉。「宮城県農業共同組合 農民の家」は、安価な公共の宿。単純炭酸泉、重曹泉、硫黄泉、芒硝泉など。「鳴子ホテル」は、硫黄泉と食塩泉。

「鳴子観光ホテル」は、単純泉と硫黄泉、「本陣横屋」「吟の庄」は硫黄泉とアルカリ泉などなど、30数軒の宿がそれぞれのお湯を楽しませてくれる。

湯元の数は300を超えると言われる。「瀧の湯」は仙台藩がわざわざこの地まで来て利用したという、伝統ある共同浴場。

平安の昔から、鳴子温泉神社の神湯として、脈々として湧出する。「早稲田湯」は、早稲田大の学生が掘り当てたという共同浴場。 ちと熱い。現在、改築中(オープンしたのかな?)

温泉街は、小牛田方面から来ると、陸羽東線のガードをくぐってはじまり、鳴子温泉駅を中心に、車がすれ違うのがやっとの細い道が放射状にのびている。鳴子の漆器は、江戸以前から続く伝統のもの。こけしがあまりにも有名だが、今も現役の工人が、つくる。頭をまわすと、きゅっきゅっ、という、やはりその昔は玩具であったのか。