鉄鋼に代表されるベースメタル製造プロセスは、環境調和社会に向けた技術変革の時にある。
本研究分野では、このベースメタルプロセッシング技術の新展開を支える基盤技術に関する研究活動を行っている。



1.環境調和型鉄鋼精錬プロセスの構築

本研究は溶銑脱燐処理の反応効率を極限まで向上させる事により、スラグ発生量の低減を図るとともに、将来の劣質原燃料使用時へも対応できる精錬プロセスを構築する事を目標としている。
脱燐スラグには燐酸を固溶できるダイカルシウムシリケート固相(C2S)が存在しているため、脱燐効率を上げるには、液相スラグからC2S相へ燐酸を移動させ、スラグ液相中の(P2O5)濃度を低く維持する事が重要である。
本年は、脱燐反応におけるC2S相の寄与を明確にするための研究を行った。実験は1673Kで燐酸を含有するC2S飽和液相スラグに、予め作成したC2S焼結体を一定時間浸漬し、急冷後に界面を観察する事で燐酸の移動挙動を調査した。
その結果、燐酸の移動は単純な固相内拡散ではなく、Fig.1に示すような界面変質層が成長する過程をとる事、バルク液相内のC2Sに比べて変質層内C2Sの燐酸濃度は著しく低い事を明らかにした。


2.鉄鋼材料の凝固、変態、析出の動力学に関する研究

酸化物を用いた鉄鋼材料の組織制御はオキサイドメタラジーと称して研究されてきたが、対象としている酸化物は凝固中の晶出物までであり、存在密度が高くないため材質設計への適用には限界があった。最近、凝固後のオーステナイト系ステンレス鋼中において加熱・圧粉により晶出した酸化物が溶解し、新たに微細な酸化物が析出し鉄鋼材料の特性に寄与する事が明らかになりつつある。そこで、本研究では前述の現象のメカニズムを解明しオキサイドメタラジーの新しい展開を図る事を目的としている。本年はオーステナイト系ステンレス鋼中Si、Mn濃度を変化させ、脱酸生成物が加熱によりどのように変化するかを調査した。また、本現象の基礎的な理解を深めるためにMnO-SiO2-Cr2O3系スラグの1273K~1673Kの温度範囲で平衡実験を行い、これまでデータが報告されていない温度範囲での平衡関係を決定する事ができた。


3.ベースメタルスラグの組織・組成制御による新しい無機材料の創製

スラグの資源化を拡大するには、処理費用に応じた販価が確保できる付加価値が必要である。鉄鋼材料は化学組成範囲や金属組織を厳密に制御する事で製品特性を創製し価値を生んでいるのに対して、スラグは化学組成も大きくばらつく上に冷却速度も冷却雰囲気もほとんど制御されない。つまり、スラグは生産量が鉄鋼の30%にも達するほどでありながら作り込みが不十分であり、これが付加価値向上の大きな妨げとなっていると言える。本研究は、スラグに対して凝固も含めた加熱冷却時の速度と雰囲気を制御したプロセッシングを与えることで材料特性を生み出す基本である組織を制御し、その特性を評価しようとするものでる。本年は、最高温度が1880Kで、制御された温度勾配下を一定速度で試料が移動できる雰囲気制御炉(スラグプロセッシング炉;Fig.2)を設置し研究を開始した


4.反応界面積の極大化による超高速精錬プロセスの追求に関する研究

鉄鋼2次精錬における真空脱炭・脱窒・脱水素プロセスの気液反応速度向上には、ガス攪拌場での自由表面における反応速度を定量化し、その支配因子を明確にする必要がある。本研究では最少のエネルギーで最大の精錬効果を得るための基本的条件を明確にするため、水モデルでの脱酸素速度を測定し気液表面反応速度に対する底吹き方法の影響を評価した。実験はアクリル円筒型容器に溶存酸素飽和水を入れ、底部ノズル(5種)からArガスを底吹きし溶存酸素濃度の経時変化より容量係数を求めた。その結果、図3のように表面反応容量係数は均一混合時間とは必ずしも対応しない事をあきらかにした。また、反応速度をプルームアイ、プルームアイ以外に分離することでガス攪拌下における気液反応速度を表す新しい関係式の導出に成功した。


5.鉄基合金系における不均質核生成制御因子に関する研究

鉄鋼の凝固組織を制御する上では、凝固中の固相の析出サイトを制御することが重要である。融体中において析出核となるのは、鉄鋼材料を例に取れば,非金属介在物が析出核となることが考えられる。非金属介在物が融体中に均一に数多く分散にしていれば、凝固組織の微細化を行うことができる。このような核生成現象を理解するための重要なパラメータは、析出核と凝固層の格子のミスフィットの程度、さらに核発生頻度には析出核と融体層が接触したときの接触角が重要であることが定性的に知られている。本研究では、液滴法を用いて高純度鉄と各種酸化物単結晶間の接触角測定を行っている。接触角の値には,雰囲気ガス中の酸素分圧が影響を及ぼすので、同一の酸素分圧下での測定を行うために雰囲気ガスであるアルゴンガス中の酸素分圧(Po2=~10-17atm)を積極的に制御した測定を実施中である。


6.無機材料の熱物性評価法の開発と測定

各種無機材料の熱物性値はその重要性にもかかわらず,その測定法の困難さから熱力学データ等に比べて少ないのが現状である.レーザーフラッシュ法は熱拡散率を短時間で測定する手法として広く認知されており,室温から高温までの測定が可能である.本年度は室温近傍において,いままで困難であった小さな試料(直径3mm程度)を簡便に測定可能な装置を開発した.また,次のようなプロジェクトを実施した。

(1)鉄鋼の原料の焼結プロセスにおける熱拡散率変化の測定
(2)金属ガラスのガラス形成能と熱拡散率
(3)GaNの熱拡散率評価


7.低放射化鉄鋼材料の開発による放射性廃棄物の減量化に関する研究

原子力発電所の廃炉時に発生する鉄鋼材料は,現状では低エネルギーレベル廃棄物であるため処分に多大の費用がかかる.鉄鋼中の放射化成分組成を制御しクリヤランスレベル以下にすることで処分費用の大幅削減リサイクルが可能になる.本年は,製銑工程での代表的な放射化元素であるCoのマスバランスを調査した.その結果,通常の溶銑に含まれるCoは約20ppmであり,図4のように主な混入源は蛇紋岩である事,鉄鉱石は銘柄により1~4ppmのCo濃度である事,スラグと溶銑間の溶銑間のCo分配は0.25である事がわかった.さらに,蛇紋岩をドロマイトで置換した還元実験により,実験室では10ppmの溶銑が得られた.さらに,500kg規模の転炉脱炭試験を実施し,製鋼工程ではCoの汚染はなく,溶銑の含有量を低下させる事が重要であるという知見を得た.


8.製鋼スラグと非鉄製錬スラグ混合時の分配に関する検討

ステンレス精錬スラグ(以下SUSと略す)はダイカルシウムシリケート(C2S)を含有量するため粉化しやすく、資源化の障害となっている。一方、非鉄精錬スラグ(以下NFSと略す)はPb、Znなどを含有しており、一部に重金属除去の問題がある。そこで特殊鋼と非鉄金属製錬の産業間リンクによるスラグ利材化プロセスを提案した。本研究では両スラグを混合することによる粉化抑制、有害金属の除去・希釈の可能性についての基礎的な検討を行った。その結果、SUSに重量比で20%程度のNFSを混合することで粉化抑制の可能性を得た。また、混合することでNFS中のPb濃度が大きく低下することが判明した。


9.メタルエマルジョン精錬による高速反応の研究

製鋼精錬において反応効率の向上は歩留・原単位や生産性向上だけでなく環境・エネルギー問題への寄与にも直結する大きな課題である。一般に精錬反応速度はスラグ、メタル両相内物質移動の混合律速であり、それを増加させる方策は①反応界面積の増加、②物質移動係数の増加、③スラグ/メタル間分配比の向上である。このうち②や③については多くの研究があるが①についての知見は少ない。反応界面積を増加させる有効な手段にエマルジョンの形成がありフラックス(スラグ)をメタルに懸濁させる技術が用いられている。しかし、溶鉄に懸濁したスラグは容易に浮上分離され、安定したエマルジョンを形成するのは困難である。一方、スラグに多くの粒鉄が懸濁している事が良く知られている。つまり、溶融金属粒がスラグへ懸濁した場合は非常に分離され難く、これを反応界面積向上のシーズに利用する事が考えられる。本研究は、この視点に立脚しエマルジョンの安定性と反応にたいする寄与について調査・検討するものである。本年は文献調査と実験装置の設計に着手した。