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北上研究室の主な研究テーマ

本分野では,おもに強磁性材料に関する基礎研究ならびに材料開発を行っています.  強磁性材料の最も大きな特徴の一つは,磁化の向きの双安定性として,材料そのものが安定なメモリ機能を示すということです.材料がメモリ機能を持つということは,人工的な微細構造によりメモリ機能を実現している半導体と比べて,大きな優位性を持ちます.この特徴を生かし,磁性体は古くからフロッピーディスクや磁気テープなどに用いられ,現在は主流の大容量記録装置であるハードディスクドライブ(HDD)にも用いられています.HDDは家庭・オフィスにあるPC・家電だけでなく,データセンターの主な記憶装置として利用されており,重要な社会基盤技術になっています.最近では強磁性体中の電子のスピンを利用した,磁気抵抗ランダムアクセスメモリ(MRAM)に代表されるスピントロニクスデバイスの研究も活発になっています.  これらの磁気メモリの安定性は,磁化の双安定性が熱などの外部擾乱に強いことに因っていますが,今後,大容量化に伴う磁性体メモリ素子のサイズの微細化につれ,近い将来には,熱擾乱によってメモリー密度に限界が来ると考えられています.本分野では,微小なメモリ素子における磁化の状態・挙動を解明し,また,新たな材料開発を行うことにより,より微小なサイズで安定な磁気メモリーの開発を目指しています.このために以下の項目 に重点をおき研究を行っています.

マイクロ波アシスト磁気記録

MAMR

現在,HDDの記録密度は年率数十%の割合で向上していますが,社会に流通する電子情報量はそれを上回る速度で増加しており,容量が不足することが懸念されています.また,データセンターの消費電力の増大も問題視されており,記録密度を向上させてHDD1台当たりの容量を増加させることが要求されています.  しかしながら,現在,磁気記録媒体には,熱安定性・書き込み特性・低ノイズの三つの相反する特性が高い水準で要求されており,従来技術の延長で解決することが難しくなっています.
 我々のグループでは,この問題を乗り越えるための技術であるマイクロ波アシスト磁気記録(Microwave Assited Magnetic Recording:MAMR)についての研究を進めています.MAMRでは,磁化の共鳴周波数と同程度のマイクロ波を補助エネルギーとして用いることで記録の書き込み(磁化の反転)を容易にし,書き込み特性を改善します.MAMRの実現のためには高出力のマイクロ波発振機構や記録媒体の開発が必要になります.現在は,それらの設計指針を得ることを目的として,垂直磁気異方性を持つナノ磁性体のマイクロ波に対する応答を中心に研究を行っています.

強磁性共鳴の測定

FMR

現在,磁気デバイスの高速化が進められており,GHz帯での挙動の理解が求められています.特に,上述のマイクロ波磁気アシストにおいては,マイクロ波の効率的な吸収が重要であり,高周波に対する応答に関する知見が必要不可欠です.
 我々のグループでは,伝送線路上に作製した微小な磁性体によるマイクロ波の反射・吸収を観測することにより,強磁性共鳴の評価を行っています.この手法では,従来の導波管を用いた方法に比べて試料のサイズが小さくて済み,また,周波数を自由に変化させることができるため,高磁気異方性材料への適用が容易である利点があります.

ナノ磁性体の高感度評価

AHE 多くのPCで主な記録媒体として採用されているハードディスクドライブ(HDD)では,微小な磁性体の磁化(N極,S極)の向き によって情報を保持しています.今後の大容量化に伴い,1ビット当たりの面積が小さくなることが想定されており,1Tbit/in2 においては25×25 nm2,5Tbit/in2においては11×11 nm2程度の大きさとなります.また,将来的には 1bit/1粒子のビットパターンドメディア(BPM)も提案されています.ところが,このように微小な磁性体の磁気特性は,従来の手法では評価 が不可能でした.本研究室では,孤立したナノ磁性体の異常Hall効果(AHE)を測定する手法を開発し,直径が50nmのナノ磁性体の磁化曲線を 測定することに成功しています.また,東北大学電気通信研究所との共同研究として,直径30nmのナノ磁性体のアレイ構造の磁化曲線の測定に も成功しています.

高速パルス磁場中での磁性体の挙動

磁性体を用いたデバイスに要求される性能には,大容量化に加えて高速化があります.磁性体をメモリ素子として用いた場合,磁化の反転速度が デバイスの動作速度を本質的に決定します.本研究室では,パルス磁場中でのナノ磁性体の磁化挙動を明らかにすることを目的とし,ナノ秒大振幅パルス磁場発生のため,自作のパルスジェネレーターと微細加工技術を組み合わせて,ピコ秒で変化する大振幅磁場の発生に成功しています.現在は,磁場の印加方向や速度を工夫することにより,磁化のダイナミクスを積極的に利用した磁化反転手法の開発を行っています.

高機能磁性材料の開発

原子スケールで規則的に配列させた結晶構造では,新たな機能性が発現が期待できます.左図に示した結晶構造においては,いずれもその原子配列に起因した巨大な磁気異方性が発現することが確認されています.今後の更なる機能性向上を目指して,合成法やナノ構造制御の開発を,東北大学電気通信研究所 青井教授・島津准教授グループとの共同研究として進めています.
また,異種原子を数原子層レベルで積層した多層膜構造においては,界面に起因した大きな磁気異方性が発現することが知られており,材料の組み合わせや構造・界面状態と磁気異方性に関する基礎的な研究を進めています.

永久磁石の材料開発と磁化過程

永久磁石は様々な分野で利用されており,社会を支える基盤技術となっています.特に,モーターなどの分野ではその性能向上が省電力化につながることが期待されています.その一方で,性能の確保に添加元素として用いられている希土類元素は生産国が極めて限られるため,政治的なリスクが懸念されるようになりました.
 我々の研究室では,これまでに培ってきた薄膜作製技術を利用することにより,永久磁石材料の表面・界面も含めた構造と磁気特性,磁化過程を明らかにし,その性能向上に資することを目的として研究を進めています.