非極性GaN系量子構造の有機金属化学気相
エピタキシー(MOVPE) 成長とデバイス化

Metalorganic vapor phase epitaxy (MOVPE) of nonpolar
III-nitride quantum structures and thier device application


■はじめに
 1993年の高輝度青色発光ダイオード(LED)商品化フィーバーを皮切りに、紫外線、青〜緑色、白色LEDや青紫色(405nm)レーザーダイオード(LD)が次々と商用化されました。LEDは街で見かける交通用信号機、クリスマスイルミネーション、バックライトやカメラ付き携帯のフラッシュなど、青紫色LDは次世代DVD用光源へと応用され、窒化物半導体発光素子は、いまや無くてはならない存在になっています。
 白色LEDは、今後のさらなる発光効率の向上により、LED照明や車のヘッドライトなどの応用が見込まれています。また、窒化物半導体は高周波数・高出力トランジスタ材料としても有望であるため、カーエレクトロニクス全般へと応用されていくことになるでしょう。この他、紫外線LEDは殺菌灯、緑色半導体レーザーは、レーザーフォログイラフィー、網膜投影型プロジェクターなどへの応用が期待されています。




InGaN系LEDとAlInGaP系LEDの外部量子効率
 左図は、InGaN系LEDとAlInGaP系LEDの外部量子効率の波長依存性をプロットしたものです。InGaN系LEDが明るい領域は、青紫から青色の領域に限られており、緑色よりも長波長域では、@低温成長による結晶品質の低下と、A歪みInGaN量子井戸に発生する圧電分極電場により、井戸内の電子-正孔対の波動関数が分離し、発光効率が低下してしまいます。これに対して、AlInGaP系LEDは赤色からアンバー域までは高い効率を保っていますが、黄色よりも短波長域では低下してしまいます。双方共に、緑色領域の効率が低いため、同領域をグリーンギャップと呼んでいます。


緑色半導体レーザーに向けて
近年では、電場の影響を回避するため、発光素子を一般的なc面ではなく、m, a面などの非極性面{10-11}, {10-12}, {11-22}などの半極性面へ形成する手法が試みられています。非極性面では、分極軸となるc軸が量子井戸面内に含まれるため、電場の影響が回避できます。
外部量子効率とは、投入電力に対する
光出力の割合を表します


■MOVPE法とは?


 有機金属化学気相エピタキシー(Metalorganic vapor phase epitaxy: MOVPE)法は、有機金属化合物や水素化物を気体原料として、熱分解反応により半導体結晶を基板上にエピタキシャル成長させるVPE法の一種です。
 
 MOVPEの歴史は、1963年のManasevit(Rockwell社)の特許を起源とし、1968年のManasevitによるGaAsエピタキシャル薄膜成長の成功から始まりました。これ以降、原料の高純度化、成長条件や原料の種類の最適化を目指して盛んに研究がなされ、極めて高品質な結晶が得られるようになってきました。そして、1977年、DupuisらがAlGaAs/GaAs LDの作製に成功したのを皮切りに、MOVPEが一躍脚光を浴びると共に研究が加速的に進み、今日の工業的応用へと繋がっています。
 現在市販されている窒化物半導体発光デバイスは全てMOVPE法により作製されています。


成長ゾーンの様子
MOVPE法には以下のような特徴があります

@ II,III,IV,V,VI族元素の殆どに対して、種々の有機金属化合物や
  水素化物が存在するため、原料選択の自由度が大きい。
A 基板のみを加熱(Cold Wall)すればよく、反応菅周りの構造が比較的簡単。
B 原料が気体であるため、ガス系のバルブ操作により複雑な多層構造
  の形成も可能。
C 急峻なヘテロ界面が比較的容易に作製できる。
D 高均一、大面積、多数枚成長が可能で、量産向きである。
E 成長速度は温度によらず、原料供給量で制御可能である。
F 混晶の組成は原料供給比で制御可能である。 


■自立GaN基板上への非極性m面GaNホモエピタキシャル成長



(a)m面GaN基板の表面AFM像。m面GaNホモエピタキシャル薄膜の(b)表面AFM像と(c)X線ロッキングカーブ
Appl. Phys. Lett. 92, 091912 1-3; erratum 93, 129901 1.
 左図に本研究室で成長したm面GaN薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)像、とX線ロッキングカーブ(XRC)を示します。成長用基板にはハライド気相法によりc軸方向に成長させ、その後c面と垂直に切り出した自立m面GaNを用いました。この基板上にホモエピ成長したところ、表面には規則的に並んだ原子層ステップが観測され、XRC半値幅は(10-10)回折で31arcsec、(10-12)回折で48arcsecと基板と同等な値が得られています。





(a)m面GaN基板およびm面GaNホモエピタキシャル薄膜の室温PLスペクトル
(b)室温時間分解PL信号
(c)有効PL寿命(τPL,eff)とPL半値全幅のV/III比依存性
Appl. Phys. Lett. 92, 091912 1-3; erratum 93, 129901 1.
(a)には、室温のPLスペクトルを示しました。
 スペクトルは対数表示なので注意して下さい。3.41eVにバンド端発光が支配的に観測されています。半値全幅(FWHM)は37〜43meVとなりました。

(b)には、室温の時間分解PL信号を示しました。
 m面GaNホモエピタキシャル薄膜で、最も長い減衰が得られていました。

(c)には、有効PL寿命(τPL,eff)とPL半値全幅のV/III比依存性を示しました。
 室温では、非輻射再結合過程が支配的となるため、有効PL寿命は非輻射再結合を表していると考えることができます。V/III比の増加に伴いτPL,effが増加していることから、非輻射性の欠陥の混入が抑制されていることが分かります。
 τPL,effは268psとなりました。この値は、世界最長記録です!



10Kにおける偏光依存PLスペクトル
α(k // c,E c)、σ(k c,E c)、
π(k c,E // c)は偏光測定の配置関係を表す。
cは結晶のc軸、kは光の進行方向、
Eは光の電場ベクトルの方向を表す。
Appl. Phys. Lett. 92, 091912 1-3; erratum 93, 129901 1.
左図に10Kにおける偏光依存PLスペクトルを示します。

ご覧下さい、GaNの価電子帯の光学異方性を反映した詳細な構造が観測されています。
これらの結果は、本研究室で成長したm面GaN薄膜が優れた品質であることを示しています。^^)v



もどる