AlGaInN 系超薄膜のアンモニア分子線
エピタキシ成長と光物性

NH3-source molecular beam epitaxy (NH3-MBE) of
III-nitride epilayer


NH3ガスソース分子線エピタキシー結晶成長装置『scVG-Q7』

■はじめに

 秩父研究室では、GaNと同じIII族窒化物半導体である窒化アルミニウム(AlN)のアンモニアソースMBE成長を行っています。 AlNはバンドギャップがおよそ6eV、発光波長ではおよそ210nmの直接遷移型半導体です。 このため、AlNをはじめとする高AlNモル分率の(Al,In,Ga)N系混晶は、深紫外線(Deep UV)領域の固体発光素子用材料として期待されています。

 最近、AlNホモ接合LEDからの210nm最短波長発光[1]や、AlGaN量子井戸LEDからの227.5〜350nm発光[2]など、深紫外線LEDに関する報告が国内外の多くの企業や研究機関からされています。 しかしながら、これらのデバイスは、青色や緑色LEDに比べ2桁以上も発光効率が低く、デバイス品質の改善が急務となっています。 発光効率改善のためには、薄膜中の不純物や結晶欠陥の制御デバイス構造の最適化、さらにAlNの基本的な物性についての知見を得ることが重要です。

 そこで我々は、アンモニアガスをV族原料として用いる、NH3ソース分子線エピタキシ(NH3-MBE)法により、AlNおよびAlGaN等の混晶成長を行い、紫外線発光素子の作製を目指します。 NH3-MBE法は、超高真空下で結晶成長を行うため、不純物密度を低減できるほか、熱平衡状態では得られないような混晶を作成できます。 また、RHEED観察により結晶成長時にダイナミックにその場観察を行い、成長メカニズムの解明を行います。


[1] Y.Taniyasu, M.Kasu, and T.Makimoto, Nature (London) 441, 325 (2006).
[2] 例えば、M.Asif Khan他, Jpn. J. Appl. Phys. 44, 7191 (2005).

■NH3-MBE法とは?
   III族窒化物半導体のMBE成長では、窒素やアンモニアなどのガスを窒素源として用います。

☆プラズマソースMBE
 RFプラズマやECRプラズマにより生成したラジカル窒素活性種を窒素源として用いる。
☆NH3ソースMBE
 アンモニアを窒素源として用いる。

 この両者では、成長ストイキオメトリ条件が大きく異なります。プラズマソースMBEの場合、V族原料(N)よりもIII族原料 (Ga)を過剰に供給するGa-rich側に最適成長条件が存在するため、Ga液滴が表面に生成し易いという問題点があります。
 一方、NH3ソースMBEでは、NH3を過剰に供給した状態で表面分解によりNが供給されるため、Ga液滴が形成されにくく、平坦な表面が得られ易いという長所があります。NH3の熱分解を必要とするため成長温度が高く設定されるため、結晶の高品質化も同時に期待できます
NH3-MBE装置の概念図

■NH3-MBE法で作成したAlNの発光特性
NH3-MBE法で作成したAlN薄膜の(a)原子間力顕微鏡(AFM)像と(b)(c)カソードルミネッセンス(CL)スペクトルを示します。基板にはMOVPE法によりサファイア基板上へ成長したGaNテンプレートを使用しました。
 (1)表面には規則的に並んだステップが観測され、(2)深い準位からの発光は殆ど検出されず、(3)室温では自由励起子発光が支配的に観測されるなど、
高品位なAlN成長を示唆する結果が得られています
(a)AlNエピタキシャル薄膜の表面AFM像、(b)室温CLスペクトル、(c)高分解能CLスペクトルの温度依存性[Appl. Phys. Lett. 90, 241914 (2007).]
3.1eV,3.8eVおよび4.6eVに、AlNの深い準位に起因する発光帯を観測しました。 これらの発光帯は、結晶欠陥や不純物に起因するものと報告されています。 我々はV/III比や成長温度などを上手くコントロールし、これら深い準位に起因した発光の低減に成功しました。
CL測定と陽電子消滅測定による、これらの発光帯の起源の解明に関してはこちらを参照下さい。
 CLスペクトルの温度依存性

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