酸化物半導体MgZnOのヘリコン波励起
プラズマスパッタエピタキシー

Helicon-wave-excited-plasma sputtering epitaxy
of (Mg, Zn)oxide alloys

プラズマ励起中!!! コントロールパネル だっしゅ君です。


■はじめに

 私達はヘリコン波励起プラズマスパッタエピタキシー(HWPSE)法という独自のエピタキシャル成長技術を提案しています(特許第3816759号)。 現在、私達はこの手法を用いて主にII族酸化物半導体(ZnO,MgZnOなど)の薄膜成長を行っています。


広がるZnOの利用
 酸化亜鉛(ZnO)は古くからバリスタ・圧電素子・蛍光体・透明導電膜・化粧品などに用いられてきました。光半導体素子応用は窒化ガリウム(GaN)に遅れをとっていましたが、96年には単結晶エピタキシャル薄膜から励起子散乱・多体効果によって利得が増強された「光励起誘導放出」が相次いで報告されてから低しきい値レーザやLEDへの応用を目指した研究が盛んに行われ、2004年末には東北大学金属材料研究所の川崎雅司教授と塚崎博士、そして電気通信研究所大野英雄教授および秩父教授と尾沼助教他の共同研究成果として窒素ドープp型ZnOとn形ZnOのpinホモ接合ダイオードからの室温発光がNature Materials,続いてJJAP Express Lettersに掲載されました。
ZnOの応用例

励起子ポラリトン!!!
 ZnOの励起子束縛エネルギはGaNのそれの2倍以上大きく、励起子と電磁波(光子)の連成波である励起子ポラリトンが比較的安定に存在できます。 この励起子ポラリトンを共振器モードと結合させた場合、励起子と光の結合力(ラビ分裂量 ; ΩRabi)は、半導体微小共振機としては最大の191meVに上ります。 近年の進展著しいエピタキシャル成長技術を用いることにより、ポラリトンのボーズ凝縮に基づくコヒーレント光源(ポラリトンレーザ)の室温動作を実現できる可能性があります。詳しくは、Semicon. Sci. Technol. 20, S67 (2005). を参照して下さい。

【励起子ポラリトンとは】
 励起子ポラリトンとは、励起子と光が結合して両方の性質を併せ持ちながらコヒーレントな状態で物質中を伝搬する連成波のことです。 左図に示すように、励起子と光の分散関係の交点付近で相互作用を起こし、ポラリトンの上枝・下枝が生成されます。 ここで、ωLT(LT分裂量)は波数k=0でのωLとωTの差であり、励起子ポラリトンの安定性の指標となります。


励起子ポラリトンの分散関係


■HWPSE法とは?

HWPS法のイメージ
 ヘリコン波励起プラズマスパッタ(HWPS)法は、比較的高真空中で励起可能な有磁界低エネルギ高密度プラズマである「ヘリコン波励起プラズマ(HWP)」を、基板から隔離され弱磁場勾配の印加された石英管内で発生させ、ターゲットバイアスによってAr+を加速してターゲットをスパッタし、プラズマダメージ無く基板上に薄膜を堆積する手法です。
HWPS法の原理
Appl. Phys. Lett. 88, 161914 (2006).

これがHWPS装置だ!!!
 従来のスパッタ法と比較して、HWPS法の特長は、
  • 薄膜成長室とプラズマ生成部が空間的に分離しており、プラズマイオンによる基板や成長中の薄膜へのダメージを抑制できる
  • プラズマ生成エネルギーとは独立にターゲットバイアスを変化させることにより、ターゲットを衝撃するプラズマイオンの並進エネルギーのみを制御可能
  • プラズマが比較的高真空で励起可能なため、薄膜中への不純物の混入を抑制できる
  • HWPは高密度・低エネルギプラズマなので、従来の成膜レートを保ちつつも非常にソフトな製膜が可能
  • 非常に平坦な表面を持つエピタキシャル薄膜が形成可能
    ヘリコン波励起プラズマスパッタエピタキシー(HWPSE)法

HWPS法の概念図



■酸化亜鉛(ZnO)のエピタキシャル成長

ZnOの表面です。
 左図に示すのは、HWPSE法で成長したZnO表面の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope; AFM)像です。 (a)サファイア基板上に直接成長したZnOと(b)サファイア基板とエピタキシャル薄膜の間に高温熱処理自己緩衝層(High Temperature Annealed self-Buffer layer ; HITAB)を挿入したZnOを比較すると、 HITAB上ZnOはグレイン径がサファイア上ZnOの約2倍になっています。 また、断面プロファイルから分かるように、グレイン上部では0.26nmの単分子層ステップが観測されるほど平坦になっています。

【HITABとは】
 HITABとは、格子緩和し、貫通転位密度が低減されたZnOエピタキシャルテンプレートです。比較的低温でZnOを堆積し、高温で熱処理することで形成されます。


ZnO表面のAFM像と断面プロファイル
J. Appl. Phys. 102, 073505 (2007).

ひ、光った…
 HITAB挿入の効果は発光特性にも顕著に現れています。左図にフォトルミネセンス(Photoluminescence ; PL)スペクトルを示しますが、 サファイア基板上ZnO(青線)ではInに束縛された励起子の再結合による発光が支配的であったのに対して、HITAB上ZnO(赤線)ではA自由励起子の再結合発光が観測されました。 また、高エネルギ側の発光の裾部分にはB自由励起子の再結合発光も含まれています。

ZnOの9KにおけるPLスペクトル
J. Appl. Phys. 102, 073505 (2007).



■SiO2/ZrO2分布ブラッグ型反射器の作製

DBRの反射スペクトルです。
 HWPS法を用いて366nmで反射するSiO2/ZrO2分布ブラッグ型反射器(Distributed Bragg Reflector ; DBR)を作製しました。左図右上に示す反射率計算から、8周期としました。

 図の黒点線は計算結果を表しています。これに対し、赤線は一般的に用いられる電子線蒸着法 青線はHWPS法により作製したDBRの反射率スペクトルを表しています。

 反応性HWPS法(R-HWPS法)により作製されたDBRは、波長366nmにおいて99.95%以上の反射率を示し、ストップバンド幅(反射率が95%以上となる波長領域と定義する)も80nmと広い特性を示しました。 スペクトルが計算結果と良く一致していることからも、R-HWPS法の制御性の良さがわかります。
SiO2/ZrO2DBRの反射スペクトル
Appl. Phys. Lett. 88, 161914 (2006).

 HWPS堆積の研究は、一部 東京理科大学理工学部中西・杉山研究室(秩父教授の古巣)とも共同で行っており、p型透明導電性薄膜CuAlO2の堆積やGa添加ZnO透明導電性薄膜の堆積も行っています。

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